発泡酒“落日”、薄れる存在 第3・ノンアル台頭で販売量3分の1に
フジサンケイ ビジネスアイ 2月18日(土)8時15分配信

 ビールを下回る価格で一世を風靡(ふうび)した発泡酒の存在感が薄らいでいる。ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)に占める割合は2002年に37.2%あったが、11年は15.4%と半分以下に落ち込んだ。後から登場した第3のビールに低価格のお株を奪われたほか、ビール各社が利益率の高いノンアルコールのビール風味飲料などに力を注いでおり、10年4月以降、新製品が出ていない。一定の愛飲者を持つブランドを持つ各社は撤退を否定するが、活性化が望めない状況に陥っている。

 ◆全社マイナス

 今月相次いだビール大手の11年12月期決算発表。豪州事業が不振だったキリンホールディングス以外の3社が営業増益を確保したが、国内事業に貢献したのは、前年比で市場が2割成長したノンアルコールのビール風味飲料など。各社の首脳は、発泡酒について触れることはほとんどなかった。

 発泡酒の11年の販売量は13%減の86万キロリットルで、最盛期の約3分の1に減った。大手4社の今年の販売計画も、全社が前年比マイナスを見込む。

 減少率はキリンビール3.8%、アサヒビール12.1%、サッポロビール18.5%、1994年に他社に先駆けて発泡酒を生み出したサントリー酒類にいたっては40.3%と、ビール類出荷量に占める発泡酒の割合はわずか1.7%になる計算だ。

 発泡酒にとって代わっているのが、第3のビール。11年の総需要は194.1万キロリットルと5年前より5割以上も増えた。「第3」の躍進の背景には税制がある。発泡酒には税率が2段階あるが、現在主流の商品は麦芽使用率が25%未満で、350ミリリットル当たりの税額は47円。「第3」の28円と比べて約7割も高く、350ミリリットル缶入りの店頭での実勢価格は、発泡酒が160円程度、「第3」が140円前後とくっきり差がついている。

 「第3」には、大豆タンパクなどを原料にしているものと、発泡酒に麦を原料とした蒸留酒を混和させたものがあるが、後者は麦芽使用率50%未満が要件。麦芽の量を基準にすると、一部の「第3」の方が発泡酒よりもビールに近いことになる。

 ◆「機能性」が頼み

 それでも「発泡酒の撤退はない」と各社が口をそろえるのは「各ブランドが一定の固定客を持っており、販促費をかけなくてもある程度は売れる」(関係者)からだ。

 発泡酒全体の7割を占めるキリンの有力ブランド「淡麗」の11年の販売量(派生商品を除く)は約2700万ケース(1ケースは大瓶20本換算)と前年に比べ4.3%減ったが、ビール類全体でみても「スーパードライ」(アサヒ、ビール)などに次ぐ4番目の多さを誇る。同社マーケティング部の今村恵三主査は「ジャンルで選ぶというよりは『淡麗』というブランドで選んでいただいている」と強調する。ブランドで選ぶ消費者は、嗜好(しこう)や価格を基準にしている傾向が強く、発泡酒だから買う、買わないという行動はほとんどないとみられている。

 また、発泡酒の功績の一つに糖質やカロリーを抑えた「機能性」という市場を創造したことがある。他のビール類に比べて「機能性」を付加しやすく、02年にキリンが発売した糖質70%オフの「淡麗 グリーンラベル」が大きな役割を果たした。ビールでも過去に機能性に着目した商品が出たが定着せず、低価格で気軽に飲める発泡酒の特徴とマッチしたことで、市場ができたようだ。

 ◆「低価格競争が経営体力奪う」

 グリーンラベルの販売量は昨年、前年比1.3%増とプラスを確保。担当するキリンの守川斉利主務は「味や、テレビCMで訴えた爽やかなイメージが受け入れられた」と指摘する。アサヒの糖質ゼロの発泡酒「スタイルフリー」も“市民権”を得ている数少ない発泡酒の一つで、昨年の販売量は5.1%増を記録している。「第3」にも機能性を売りモノにする商品が登場し、機能性の競争も勃発しているが、“定番商品”が勝(まさ)った格好だ。

 一方で、発泡酒から「第3」へと細分化されてきたビール類市場について、「市場が縮小する中、低価格帯での競争を余儀なくされ、各社の経営体力を奪う契機になった」との指摘もある。「第3」でトップシェアのキリンでも、11年12月期の国内酒類事業の売上高は、10年前から約2割減った。

 今後も、発泡酒の販売量は減り続ける見通しだ。ただ、酒税の税制改正は毎年のように俎上(そじょう)に上がる。03年の発泡酒増税を受けて「第3」が生まれたことを考えると、今後も税制改正などによって、ビール類の各ジャンルの栄枯盛衰が繰り返される可能性がある。(高橋寛次)

最終更新:2月18日(土)8時15分

ビールを下回る価格で一世を風靡した発泡酒の存在感が薄らいでいるそうだ。

暗黒の稲妻