処理済み廃水、飲用での普及は可能?
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 2月1日(水)19時16分配信
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カリフォルニア州ファウンテンバレーにあるオレンジ郡給水地区の「地下水補充システム(Groundwater Replenishment System)」。技術者ジミー・ペネラ氏が、懐中電灯と針を使って逆浸透膜の漏水対策を行っている。
(Photograph by Ann Johansson Corbis)
 最新の水濾過技術は、廃水を飲用可能なレベルに浄化できるほど進歩している。しかし新たな報告書によると、処理済み廃水を飲用水として広く普及させるには、法律や心理面でのハードルを乗り越える必要があるという。

 アメリカ、カリフォルニア州パサデナにあるトラッセル・テクノロジー(Trussell Technologies)社の社長で、報告書をまとめたローズ・トラッセル(Rhodes Trussell)氏は、「水を再利用すれば、特に沿岸地域で水資源を大幅に増やせる」と話す。

 処理済み廃水(再生水)は灌漑や工業では広く利用されている。だが、飲用水として一般市民に受け入れられるまでには至っていない。

◆安全性には問題なし

 新たな報告書はアメリカ国家研究会議(NRC)が作成した。最新の廃水処理技術を調査した結果、化学汚染物質との接触による健康リスクの可能性は極めて小さいという。

「最新技術を使えば、化学物質や微生物の汚染を現在の飲用水レベルと同程度以下まで低減できる」とトラッセル氏は言う。

 同氏や他の執筆者によると、飲用水向けの廃水処理に対する国民の信頼を高め、全国に一貫した最低限の浄化対策を取り入れる上で政府の果たす役割は大きい。連邦規制を強化すれば、多くの目標を実現できるという。

「例えば、水質浄化法(Clean Water Act)が施行されてから、廃水の有害物質は大幅に減少した。この法律を改正して、1977年当時に指定されていなかった有機汚染物質を積極的に規制すべきだ」とトラッセル氏は述べる。最新の知識を取り入れて規制を改めれば、再生水に対する消費者の信頼が高まると期待される。

 しかし、乗り越えるべき最大のハードルは、技術や法律面ではなく、心理的な問題である。

◆心理的な抵抗感をなくすには

 ペンシルバニア大学の心理学者ポール・ロジン(Paul Rozin)氏は、「市民の意識がカギを握っている」と話す。同氏は近日公開の映画『Last Call at the Oasis』に出演している。迫り来る地球規模の水資源危機をさまざまな側面から探るドキュメンタリー作品だ。

「ほとんどの人は、再生水を飲むことに強い嫌悪感を抱いている」とロジン氏は説明する。「その理由は汚水との近さだ。水道水やボトル入りの水を飲むときは、“どこから来たのか?”と考えないのが普通だが、再生水だと気になってしまう」。

 嫌悪感を乗り越えるには、再生水とその起源を心理的に引き離すのが効果的だ。例えば、同映画の中で、映画制作会社は再生水を「ポーセリン・スプリングス(Porcelain Springs)」という親しみやすい商品名で販売し、コメディー俳優ジャック・ブラックに飲みやすさを語ってもらった。

 また、シンガポールの実践例も参考になるという。「再生水への切り替えを“徐々に”行っているし、経済的なメリットもある」とロジン氏は述べる。

「再生水をそのままボトルに詰めるのではなく、まずポンプで地下に送り込んで水源として再利用する。また、イベント会場では再生水を無料で配っている」。

 廃水再利用プログラムの成功例の1つとして、カリフォルニア州オレンジ郡の「地下水補充システム(Groundwater Replenishment System)」が挙げられる。廃水は州と連邦政府の飲用水基準を満たすレベルまで処理されてから、各地域の地下に浸透させるための池に放流される。そして最終的に自治体や個人宅で利用されている。以前は、処理済み廃水は太平洋に放出するだけだったが、新しいシステムのおかげで帯水層の寿命が延びるだろう。水が地下でさらに濾過されるため、処理済み廃水を直接使用するよりも、市民にとって受け入れやすい可能性もある。

「このプロジェクトによって、再生水の利用量は1日あたり7000万ガロン(約27万キロリットル)から1億ガロン(38万キロリットル)に拡大した」とトラッセル氏は話す。

 ペンシルバニア大学のロジン氏は、「人々が新しいことに適応する能力は意外に高い。処理済み廃水を飲む行為にも、きっと慣れることができる。その気になってくれさえすれば大丈夫だ」と語っている。

Ker Than for National Geographic News

最終更新:2月1日(水)19時16分

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