古川さん 長期滞在から帰還 有人宇宙開発、重い宿題
産経新聞 11月23日(水)7時55分配信

 宇宙飛行士の古川聡さんが日本人で3人目の長期滞在を終え、国際宇宙ステーション(ISS)から帰還した。実験棟「きぼう」で多くの医学・科学実験に取り組み、重要な任務を果たしたが、日本の有人宇宙開発の将来は必ずしも視界良好とは言えない。巨額の費用に見合う具体的な実験成果が求められる一方で、宇宙放射線による被曝(ひばく)など飛行士の健康管理面での課題も横たわっている。

 古川聡さんの長期滞在で日本人の宇宙滞在は計615日となり、ドイツを抜き米露に次ぐ世界第3位となった。もはや日本は宇宙へ行くこと自体が目的ではなく、具体的な成果で有人宇宙開発の意義を社会に示す時代を迎えた。

 国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」は平成21年に完成し、実験開始から3年以上が経過した。初期実験のうち、難病の筋ジストロフィーの特効薬を目指すタンパク質結晶の研究は地上で動物実験の段階に入った。

 さらに古川さんは今回、医師の専門性を生かした医学分野をはじめ68件もの実験に従事。多くのデータや試料を収集し、計画を前進させた。

 また、日本はきぼうの完成でISS計画における発言力が増し、長期滞在飛行士を毎年送り込む権利を獲得。来年は星出彰彦さん、再来年には若田光一さんが滞在する予定で、運用実績は着実に増えるだろう。

 しかし、多額の費用に見合う画期的な成果は、まだ見えない。きぼうは関連経費を含めすでに総額約7100億円が投じられ、運用費は今年度だけで約350億円にのぼる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は早ければこの冬から、従来は不定期だった実験テーマの募集を定期化するなど、きぼうの利便性向上に取り組んでいるが、具体的な結果につながるかは未知数だ。

 一方、今年8月には日本人女性初の長期滞在が期待されていた山崎直子さんが突然引退。要員減で計画の練り直しが必要になったほか、一般人の宇宙生活実現に向けた女性の医学データ取得も当面難しくなった。

 宇宙開発予算は政府の財政悪化を背景に頭打ちの状態だ。JAXAはきぼうの管制要員を減らしたり、無人宇宙船「HTV」の部品をまとめ買いするなどの効率化を図っているが、東日本大震災で巨大プロジェクトを取り巻く環境は一段と厳しさを増している。

 実験の成果をどのように社会に還元し、有人宇宙開発の価値を国民に伝えていくのか。宇宙関係者は重い宿題を背負っている。(小野晋史)

 ■のれん 被災地を激励

 古川聡さんは、妻の恵子さんが福島県いわき市出身ということもあり、被災地への強い思いがあった。

 古川さんは7月、福島青年会議所が要望したビデオメッセージの収録を快諾。日本実験棟の名称「きぼう」の3文字が染め抜かれた青いのれんを手に、「福島で作られた、とても品質の良いのれん。このような製品を作られているので、力強く復興されると信じています」と励ました。

 ■被曝量 地上の100年分

 強い放射線が飛び交う宇宙は人間にとって過酷な環境だ。太陽や銀河などから飛んでくる宇宙放射線は、国際宇宙ステーション(ISS)の壁を簡単に突き抜けるため、飛行士は滞在中に1日約0・5~1ミリシーベルトの放射線を浴びる。

 宇宙に167日滞在した古川聡さんの累積線量は推定100~150ミリシーベルト程度。日本で自然に浴びる放射線量は年間約1・5ミリシーベルトなので、最大で約100年分に相当する。事故が起きた東京電力福島第1原発で働く作業員の上限線量(250ミリシーベルト)の半分以上だ。

 多量の宇宙放射線を浴びると造血組織が影響を受けたり、がんや白内障の発生率が高まるとされる。飛行士の宇宙滞在期間は放射線量によって制限されており、その低減は将来の火星旅行などの実現に向けた重要課題にもなっている。

 放射線医学総合研究所の保田浩志・放射線防護研究センターチームリーダーは「放射線だけを見ても、今のままではISSなどで一般人が普通に暮らすのは難しい。何らかの対策が必要だ」と話している。

最終更新:11月23日(水)11時39分

SF小説の様な一般で宇宙旅行というのはまだまだ先なんだろうね。

暗黒の稲妻