仮設住宅の住環境格差、寒さ対策を怠った宮城県
東洋経済オンライン 11月11日(金)11時1分配信
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大雨で冠水する仮設住宅
 冬の足音が近づく中、東日本大震災の被災地で、寒さ対策の遅れが深刻な問題になっている。

 取り組みの立ち遅れが特に著しいのが宮城県だ。9月30日に厚生労働省が開催した仮設住宅の居住環境に関するプロジェクトチーム(PT)会合で、平野達男復興対策担当相が宮城県東京事務所長を前にこう苦言を呈した。

 「仮設住宅の整備はそもそも県の事業だ。きちんと実情を把握して主体的に対応してもらわないと困る。村井嘉浩知事にも私から直接言う」

 平野氏が宮城県を名指しで批判したのには理由があった。厚労省の調査で、仮設住宅の住環境改善の取り組みに関してほとんど手つかずであることが判明したためだ。

 厚労省は30日のPT会合で、岩手、宮城、福島の3県を対象としたアンケート結果を公表。仮設住宅を設置している50市町村すべてから仮設住宅の住環境整備に関する回答を得た。その中で「雨、風よけのための風除室の設置」「断熱材追加」「窓の二重ガラス化」などの寒さ対策について、宮城県がほとんど何もしてこなかったことが明らかになった。

 風除室の設置については、福島県の実施率(実施見込みを含む)が82・4%、岩手県で28・9%に達しているのに対して、宮城県は1・7%。断熱材追加でも岩手県28・6%、福島県7・3%に対して、宮城県は0%。二重ガラス化でも岩手県42・8%、福島県11・5%に対して宮城県は0%だった。

 身体障害者や高齢者が必要とする手すりやスロープの追加設置についても、岩手県35・7%、福島県50・9%に対して宮城県ではわずか4・4%にとどまった。

■台風で劣悪な環境が露呈

 危機感を抱いた厚労省はPT会合に先立つ9月28日、寒さ対策について早急に措置を講じるように促す通知を仮設住宅を設置している各県の担当部局宛に送付した。同通知によれば、断熱材の追加や窓の二重サッシ化・複層ガラス化、玄関先への風除室の設置などの寒さ対策、通路や駐車場の舗装および排水用側溝の整備などについては、災害救助法に基づき国庫補助の対象となることを明記している。同法の仕組みにより、市町村の資金負担はわずかで済む。

 もっとも、災害救助法に基づく支援措置は今回初めて盛り込まれたものではなかった。すでに厚労省は6月21日の通知でも暑さ寒さ対策の実施を促している。岩手県や福島県はこの前後の時期から、すでに対策に着手していた。その反面で、宮城県が大きく出遅れたのはなぜか。

 岩手県や福島県では、仮設住宅の建設だけでなく、その後の追加工事に関しても県が主体的に対応した。これに対し宮城県は仮設住宅の設置者でありながら、その後の管理とともに増改築についても地元の市町に委ねた。

 ところが、地震や津波の被害が大きく、職員確保すらままならなかった市町側では住民に対して、「原則として新たな追加工事はしない。住民側で増改築することも禁止する」という姿勢で臨んだ。そのうえで、雨漏りなど最低限の補修工事しか行わなかった。県と市町の役割分担もあいまいだった。

 宮城県石巻市では、「夏場に大量発生したハエ対策として住民から要望が多かった玄関網戸の設置については、予算化して対応している」(仮設住宅運営管理室)というが、秋が深まりつつある現在もまだ未完了。

 そもそも宮城県内の仮設住宅のほとんどで玄関網戸が設置されていないのは、県がプレハブ建築協会との間で取り決めた仮設住宅の仕様に玄関網戸の設置を含めていなかったためだ。その結果、当初から仕様に盛り込んでいた福島県で玄関網戸の設置が72・1%に達しているのに対して宮城県ではわずか3・9%。県の取り組み方針の違いが、県民の住環境格差につながっている。

 9月下旬に日本列島を直撃した大型台風15号は、被災地にも大きなつめ跡を残した。石巻市では市内の至る所が冠水し、仮設住宅でも住民は暴風雨に悩まされた。

 289世帯が入居していた石巻市の仮設住宅大橋団地では、敷地内に水がたまった(写真)。団地内には水を流す側溝がないため、自然に乾くのを待つしかなかった。

 湿気対策も大きな問題になっていた。大橋団地住民の山崎信哉さん(75)は「室内では結露がひどく、乾いたタオルもびっしょりになった」と語った。石巻市の飯野川北高校グラウンド仮設住宅で暮らす鈴木しく子さん(63)は、「風除室がないので、玄関に風雨が吹き込む」と嘆いた。

 石巻市雄勝町名振の仮設住宅に住む大和久男さん(56)は、「地面からの湿気がひどく、布団も湿っぽい。棚の後ろの壁にはすでにカビが生えている」と打ち明ける。

■自治会結成遅れる石巻市

 仮設住宅についてはハード面での整備が急がれているのとともに、自治会の組織化や集会所の活用など、ソフト面での取り組みも急務だ。しかし、ここでも格差は大きい。10月6日の参議院・東日本大震災復興特別委員会で、牧義夫厚生労働副大臣は、同日現在で被災3県にある890の仮設住宅団地のうち418で自治会が存在することを明らかにした。

 ところが、石巻市の場合、市内131カ所の仮設住宅団地のうち、10月3日時点で結成済みはわずか3カ所、準備中も20カ所にとどまっている。

 看護師らのボランティア団体「キャンナス東北」で石巻エリアリーダーを務める佐々木あかね看護師によれば、「8月27日以降に訪問した石巻市内の仮設住宅12カ所のうち8~9割で、仮設住宅の敷地内に設けられた集会所がまったく活用されていなかった」という。

 「集会所の鍵は市役所が管理している場合が多く、ほとんどの集会所の談話室には机も白板も置かれていなかった。結果として、住民同士が顔を合わせる機会もなかった」(佐々木看護師)。

 こうした実態は、行政の機能低下によるところが大きい。津波の被害が大きかった石巻市では、市の職員の多くも被災。震災前からの行政改革で職員数も大きく減っており、住民への対応が困難になっている。市の担当者は「苦情処理に追われ、現地訪問もままならない」と打ち明ける。県による手助けも不十分だ。

 石巻市では仮設住宅への入居を抽選に委ねたため、被災住民が市内各地の住宅にばらばらに入居。コミュニティ形成を阻んでいる。岩手県の宮古市が抽選を行わずにすべての被災住民を地区単位で近隣の仮設住宅に入居させたのとは対照的だ。

 自治体の取り組み格差はすでに被災地の住民生活に大きな影響を及ぼしている。

(本誌:岡田広行 =週刊東洋経済2011年10月22日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

最終更新:11月11日(金)11時1分

これから寒くなる季節なのだが・・・風邪にはくれぐれもご注意ください。

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