“実測100Mbps以上”で世界観が変わる――UQ野坂社長に聞く「WiMAX 2」の展望
+D Mobile 8月2日(火)15時25分配信


UQ WiMAXのCMでは、ガチャピンとムックがUQブルーに染まったWiMAXの使者「ブルーガチャムク」として登場する
 下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsの高速通信が利用できるUQコミュニケーションズのUQ WiMAX。2009年のサービス開始以降、好調に契約数を伸ばし、2011年6月15日には100万契約を達成。2011年5月には基地局数が1万5000局を超え、人口カバー率は全国で71%、東名阪主要都市で99%に達している。

【「“実測100Mbps以上”で世界観が変わる」 UQ野坂社長に聞く「WiMAX 2」の展望】

 そんなUQ WiMAXが、新たなステージに突入しようとしている。同社はWiMAXの次世代規格「WiMAX 2」(IEEE802.11m)の実証実験を進めており、20MHzの帯域幅を用いることで、下り最大165Mbps、上り最大55Mbpsの速度を実現する。7月6日には報道陣向けに公開テストも行い、実測で150Mbpsの通信が可能なことを披露した。現在は総務省の審議を待つ状態だが、WiMAX 2の商用化は2013年度を予定しており、さらに上を行くモバイルブロードバンドの提供が期待される。UQコミュニケーションズの現状、そして今後の展開について、同社代表取締役社長の野坂章雄氏と、技術部門 副部門長 兼 ネットワーク技術部長の要海敏和氏に話を聞いた。

●女性ユーザーも増加、「これ何なの?」から少し認識されてきた

―― 100万契約を突破したということで、ユーザー層も広がっていると思います。ITリテラシーがそれほど高くない人たちも増えているようですね。

野坂氏 ようやくそこに来たという感じです。特に女性ユーザーが増えていますね。100万~300万契約あたりは女性をはじめとする一般ユーザーへの普及がカギになります。最近は女性誌でも、WiMAX PCは女性の生活にフィットするといった宣伝が目立つようになりました。お母さんの視点だと、車内で充電ができるからキャンピングカーで使って、ニンテンドーDSの通信に使うというイメージでしょうか。最近は勝間和代さんや(明治大学教授の)齋藤孝さんなど感度の高い方がWiMAXを使っていることが話題になっており、そういったことも追い風になっています。

 弊社は定期的に「お客様の会」を開いていますが、女性ユーザーの参加者も増えてきています。ただ、まだまだルーターの概念が分からない人も多い。「これ何なの?」から少し認識されてきた感はありますが。(ソフトバンクの)白戸家じゃないけど、その人の生活シーン似合う利用法を示せばいいのでは、という意見もいただいています。

―― 今オンエアしているガチャピンとムックのCMで、そのあたりの障壁がなくなりつつありますか?

野坂氏 あのCMでは「40Mbpsのインターネットを持ち運べること」を訴えています。特に固定ブロードバンド特有の配線工事が不要なのが大きい。若い女性は、自宅に配線業者のおじさんが入ってこないのがいいという人もいるでしょう。ただ、あのCMでも“その先”を説明する人が必要なんですよね。猫を使った「入ってる?」よりは分かりやすいと思いますが、まだ気付きの段階ですね。

―― モバイルWi-Fiルーターを使いながら、電波がどこから出ているのかが分からない人がいるという話もたまに聞きます。女性ユーザーが増えているということですが、男女比はどのくらいでしょうか。

野坂氏 データを集めたことはありませんが、ほとんどが男性です。直感的には男性8:女性2。7:3は行っていない気がします。

―― 利用者の年代はどのくらいでしょうか。

野坂氏 大きな像で言うと、やはり20代~40代の男性です。

●WiMAX対応電子書籍リーダーやカメラも登場する?

―― WiMAX対応端末も広がっています。

野坂氏 もともとはデータ端末から始まりましたが、最近は持ち歩けるルーターがポイントになってきています。スマートフォンやタブレット、iPod touch、ゲーム機と組み合わせて40Mbpsのスピードが出ることが訴求できています。新規契約者の6割ほどがルーターを購入していて、あとは2割強がPC、2割弱がデータ端末という感じです。WiMAX対応ルーターを購入するのは、Wi-Fiスポットを持ち歩く感覚ですね。スマートフォンやタブレットが普及したことも大きい。

―― auからはWiMAXを内蔵した「HTC EVO WiMAX ISW11HT」も発売されましたし、この秋には対応機種がさらに増えることが期待されます。

野坂氏 私もこの秋のWiMAXスマートフォンには期待しています。米国の(WiMAX事業者)Clearwireも、WiMAX対応スマートフォンの影響で契約数を伸ばしています。

―― カメラや電子書籍リーダーなども含めたマルチデバイス化への期待も高まりますが、具体的に話を進めているところはあるのでしょうか。

野坂氏 電子書籍リーダーやカメラメーカーとはかなり話をしています。現実感のあるところでは4~5社ですが、これから先は料金提示をしないといけない。「(ユーザーが)ずっと使うわけじゃないので、たまに使うときはいくらですか?」と聞かれることがあります。

―― こうした端末メーカーとは、WiMAX 2を見越した話もされているのでしょうか。

野坂氏 皆さんWiMAX 2には興味を持たれていますが、まずはWiMAXから提供します。WiMAX 2が開始されたら、例えば対戦型ゲームは圧倒的に違ったユーザー体験が得られるでしょう。そのへんの期待はありますね。

―― ゲームや電子書籍など、UQがコンテンツを管理するといったこともあり得るのでしょうか。

野坂氏 それは考えていません。それをやるとKDDIやドコモになってしまう。我々はオープンネットワーク、オープンデバイスを掲げているように、物理的なデバイスがインターネット機器になることが重要だと考えています。

―― 一番可能性を見出しているデバイスはありますか?

野坂氏 進行中の商談があるので下手なことは言えませんが(笑)、写真、ゲーム、本で(展開する)というのはあります。電子書籍はまだこれからという感はありますが。

●WiMAX基地局のアンテナを増やしていく

野坂氏 WiMAX 2導入の背景として、WiMAXルーターがものすごいトラフィックを生んでいることが挙げられます。PCデータ通信の月間トラフィックは7Gバイト近くになっています。スマートフォンの普及でトラフィックがフィーチャーフォンの10倍くらいになったと言われていますが、それでもデータ通信ほどではない。我々はPCやルーターを扱っているからこれだけのトラフィックが生まれる。さらにタブレットやスマートフォンが加わっていきます。このままいくと、2012年度中に都心の一部でトラフィックがオーバーフローするという観測もあります。我々はデータ専業ですから、トラフィックをどう処理するかが使命だと思っています。

 WiMAX 2を加えてシステムをバージョンアップすることで、データの増加に対処し、結果として電波の利用効率が上がってビット単価が下がる。これが一番大きな目的です。2010年のCEATECで実施したデモでは40MHzの帯域幅を使って下り330Mbpsを出せました。今回の実証実験では20MHz幅の電波を割り当てていただいたので、ちょうど半分の165Mbps、WiMAXの4倍ほどの速度が出ます。

 通信可能なデータ容量を増やすには、基地局を増設する方法もありますが、これ以上大都市に高密度で基地局を打つのは困難です。100メートル間隔で増設すると、基地局が干渉してかえって速度が落ちてしまうというのが技術陣の見解です。そこで周波数帯を追加して新技術のWiMAX 2を導入するわけです。

 (WiMAXとWiMAX 2の後方互換を維持できるので)WiMAX 2の基地局はWiMAXに重ねていきます。WiMAXとWiMAX 2のトラフィックを吸収できるので、お互いにとってプラスになります。もちろん、WiMAX対応端末だけだとトラフィックを吐き出せないので、今後はWiMAX 1/2の両方が使えるミックスモードのデバイスを出していく必要があります。まずはデータ端末やルーターから入り、その後はPC。チップのコストが下がってきたらスマートフォンやM2Mデバイスにも入ってくるでしょう。

―― M2Mといえば、WiMAX搭載自動販売機など、法人向けソリューションにもWiMAXが使われていますが、このあたりもWiMAX 2で変わってくるのでしょうか。

野坂氏 法人向けはどちらかというと、KDDIが展開している分野です。WiMAX 2が始まるとさらにニーズが増すとは思いますが、当面はコンシューマーデバイスに注力していきます。監視カメラ、カラオケ、写真シール機などのデジタルサイネージにWiMAXが採用されていますが、今は速度よりも常時接続の方が重要なので、上下10Mbpsくらいで十分というところが多いんです。100Mbpsでどんな需要が出てくるかは、話をしてみないと分からないですね。

―― WiMAX 2の基地局は、具体的にどのように増やしていくのでしょうか。

要海氏 新しくアンテナを建てていきます。WiMAX 2で高速化を図るためには4×4MIMOでアンテナを追加していく必要があります。IEEE802.16e(WiMAX)とIEEE802.16m(WiMAX 2)ではアンテナの設計が少し違うので、共用するよりは新しく作った方がいいんです。WiMAXの2×2MIMOを足すので、基地局のアンテナは6本になるイメージです。

―― KDDI大手町ビルの基地局を見学したことがありますが、この基地局も同じようにアンテナが増えていくのでしょうか。

要海氏 大手町の基地局には、3本×2つのアンテナエレメントが入っています。WiMAX 2ではよく見たらケーブルが多く見えるくらいで、外観はそのままに4つのエレメントが追加されます。

―― 工事の手間は……。

要海氏 それほどではないですね。アンテナと装置があって、ケーブルが何本かつながっているくらいなので。

―― 基地局の装置は変更するのですか?

要海氏 装置も変えます。2007年に設計したものを2008年から使っているので。WiMAX 2のタイミングで5年ほどが経つので、プラットフォームを設計し直すにはいいタイミングだと思います。装置はSamsung、日立、NECに製造いただいていますが、WiMAX 2の基地局をどこにお願いするかはまだ決めていません。

●WiMAX 2の対応端末はルーターから

―― WiMAX 2対応端末のチップセット(米GCT製)はUSBタイプが2つ、フルミニカードが1つありますが、いずれも仕様は同じものなのでしょうか。

野坂氏 サイズが違うだけで仕様は同じです。すでにエンジニアリングサンプルが出来上がってきていて、2012年の量産に向けて開発を進めています。

―― やはりコストは上がるのでしょうか。

野坂氏 いくぶんか上がる要素は強いでしょう。先日韓国に行ってGCTと打ち合わせをしてきましたが、WiMAXと同じかそれ以下にしてくれるよう頼んではいます。

―― マルチデバイスをうたっているので、さまざまな機器がWiMAX 2に対応することも期待されます。

野坂氏 “大きい製品”から対応するのがいいと思っています。まずはルーターからになるかと。大きなバッテリーを積むなど、今のルーターよりはサイズが大きくなるでしょう。

―― WiMAX 2で消費電力がどれだけ上がるのかも気になります。

要海氏 データレートが上がるので、プロセッシングに使うパワーは当然増えます。それを補うためにプロセスを遅くする必要があります。バッテリーを持続させるためのスリープモードやアイドルモードをさらに高度化すれば、省電力の効果が見えてくるのではないでしょうか。

―― 高度化とは具体的にどうするのでしょうか。

要海氏 例えばスリープモードの場合、Webブラウジングでページを閲覧しているときはモジュールを動かしていても仕方ないので止め、データを送受信するときだけ動かすという具合です。このオンとオフを短時間で行います。アイドルモードは、例えばPCをデスクに置いて1分以上使わなければ、より深いところで動作を止めてバッテリーの消費を抑えるような感じで、これをもっと高度化して頻繁にできるようにしたいです。例えば、現在のWiMAXでは起動していたところを(WiMAX 2では)オフにする、何段階か低減の深さを作る、ハーフオフにする、というイメージです。

●「公称何Mbps」では意味がない

―― 料金体系についてもおうかがいします。今後はデバイス別の従量課金も検討されるとのことですが、具体的にどう変わるのでしょうか。

野坂氏 100Mbpsのサービスをいっせいに使うと、電波が足りなくなってしまう恐れがありますし、1人が大量のデータを使いっぱなしだと公平ではありません。ある一定までは定額で、例えばハイビジョンカメラで動画をアップロードするといくら、DVDレコーダーで映画1本をダウンロードするといくらというような従量課金制を考えています。高速を享受してほしいけれど「電波の利用は効率的に」というのを訴えていきたいですね。

―― WiMAX 2になると、やはり上限は上がるのでしょうか。

野坂氏 まあそこは……直感的には数千円上がるような気はしますが、まだ勝手なことは言えないので(笑)。

―― 2012年度にデータがオーバーフローする恐れがあるということですが、大量の通信をするユーザーに対して通信制限を行う考はありますか?

野坂氏 「今のところ考えていません」と言い切っています。WiMAX 2の電波がもらえなかったら、いずれそういうことをせざるを得ないかもしれませんが、やはり私たちの正論は「ちゃんと技術を出すので、ユーザーに負担をかけない」と言いたい。期待されているのはそこだと思いますから。(通信制限をすると)速くて安くて便利だというWiMAXの利点を損なってしまうので、(制限なしは)ある種のポリシーにしたいです。

―― WiMAX 2のエリアカバー率はどのくらいを目指していますか?

野坂氏 エリアはこれから詰めていくところですが、当面は東名阪などの大都市圏に限られてくるでしょう。東京都もすべてカバーするわけではありません。トラフィックを吐かせないといけない場所から展開していきます。WiMAX 2に対してはカバー率という感覚はないですね。(WiMAX)の1から2に変わっていくという言い方も少し違います。1と2を合わせて「1/2」のシステムに変えていく感覚です。

―― ドコモの「Xi」をはじめ、携帯各社も高速なモバイルブロードバンドに力を入れていますが、あらためて、WiMAXの優位性を教えてください。

野坂氏 他社さんのデータ通信もこれから速度が上がっていくところだと思いますが、「公称何Mbps」では意味がないんです。実測値を比べると、WiMAXの方が十数Mbps速い。我々は2年進んでいるという言い方をしていますが、WiMAX 2は実測で100Mbps以上出るのがポイントです。ドコモのXiが実測で75Mbps出すのは当分ないのではと思います。WiMAX 2はこれまで広げてきたWiMAXの上に展開するので、極めて現実的でしょう。

●震災の津波に遭っても基地局が破損せず

―― 東日本大震災で通信各社は大きな損害を被りましたが、UQ WiMAXの被害はどの程度だったのでしょうか。

野坂氏 東北には1万5000局中2000局があり、ほぼすべてが影響を受けましたが、障害局は1週間ほどで40局に減りました。多賀城の基地局は津波の被害に遭いましたが、水が引いてからは再び電波を吹いていて……「奇跡的だ」と言われましたね。

―― 津波に遭って破損しなかったのはすごいですね。

要海氏 WiMAXの基地局装置は1人で持てるくらいに小型化しており、20キロほどしかありません。防水性能もありますし、完全に壊れた装置はほとんどありません。(津波に遭っても破損しなかったことを)メーカーに話したら、「保証できる話ではないので実験しましょう」となり、装置をプールに1時間ほど浸けて試験したら、ちゃんと動きました。

―― 基地局装置はいわゆる「IPX」の取得は……。

要海氏 してないです。台風などの雨水には耐えられるよう、通気口を作って空気を通して水分は通さないようにはしていますが、まさか津波で飲まれて圧力がかかっても持つとは思いませんでした。建物が壊れて破損したのは3局ほど。流されしまった局も1局ありましたが、拾ってくれば装置は動くのではと信じています。

野坂氏 単純に装置の体積が小さいので、圧力がかかりにくいというのもあったんでしょうね。UQでは震災による損害はほとんどありませんでした。

要海氏 それは私も感動しました。海外から、「何でWiMAXがそんなに強いのか?」「WiMAXの装置が地震に強い理由を教えてほしい」といった問い合わせがずいぶんありました。

●WORLD WiMAXの対応端末拡大も「時間の問題」

―― WiMAX搭載PCを海外でそのまま利用できる「WORLD WiMAX」も魅力的なサービスです。

要海氏 私も出張で使うことがありますが、海外でそのままWiMAXを使えると本当に感動します。Wi-Fiスポットは限られた場所でしか使えないですから。

―― 現在、WORLD WiMAXに対応しているのはインテルの通信モジュールを搭載したPCだけです。ルーターやWiMAX搭載スマートフォンもローミングできればいいのですが。やはり専用のチップセットを搭載しないと難しいのでしょうか。

野坂氏 というよりは仕組みの問題です。方法は分かっていて今話を進めているところなので、時間の問題でしょう。

―― 今後はどのあたりのエリアを拡大していくのでしょうか。

野坂氏 台湾やマレーシアなど、アジア圏を中心に拡大していきたいですね。

―― 田中前社長が「ノンPCの時代が作れる」とコメントしていたこともありますが、WiMAX 2が実現すれば、まさにそれが現実のものになりそうです。

野坂氏 世界観が全然違ってきますよね。電波の利権争いという感覚ではないと思っています。とは言ってもWiMAX 2の実現は総務省あってのことなので、皆さんの声援をもらって、総務省にも理解いただきたいと思います。今の日本はシュリンクしがちですが、面白い技術もあるし、アジア各国も注目しているので、みんなで育てていけないかと。そういう応援歌をいただけるとうれしいですね。

【田中聡,ITmedia】

最終更新:8月2日(火)15時25分

高速化するのもいいんだけれども値段のほうはどうなんだろう。
携帯端末にはb-mobileの980円使い放題が魅力だったりもするが・・笑。

暗黒の稲妻