17連敗とマリナーズの未来。
~チーム低迷とイチローの選手生命~
芝山幹郎 = 文
text by Mikio Shibayama
photograph by Yukihito Taguchi



 マリナーズがやっと泥沼を抜けた。

 7月6日以降、1勝もできなかったのだが、27日になってようやくヤンキースを倒した。それも9対2。いままでの鬱憤を晴らすように打線が爆発した。イチローも久々の4安打。

 17連敗は、いままでのところ今季最多だ。チームとしてもワースト記録。あと2つ負ければ2005年のロイヤルズに並ぶところだった。23まで行けば1961年のフィリーズとタイになるところだった。史上最多記録はクリーヴランド・スパイダーズが残した24連敗だが、あれは1899年の出来事だ。

 しかも……。

 スパイダーズの場合は、大リーグ史上最も弱い球団(20勝134敗)だった。'61年のフィリーズは47勝107敗、'05年のロイヤルズも56勝106敗という惨憺たる成績でシーズンを終えている。

 だがマリナーズの場合は、7月5日まで勝率5割をキープしていたのだ。

 より正確にいうと43勝43敗。あの貧しい打線でなぜ勝てるのか、と観客に首をかしげさせる一方で、投手陣が踏ん張った。なにしろ独立記念日までは、3点以上取った試合の結果が37勝13敗。ア・リーグ西地区の混戦状態がつづくなら、プレーオフ進出の可能性も少しはあるのではないかと思わせる成績だったのだ。

 それが、一挙に崩れた。

マリナーズを突如襲った先発投手陣の崩壊。

 直接の原因は、先発投手陣の崩壊だろう。

 フェリックス・ヘルナンデス(7月26日まで8勝9敗、防御率=3.47)は7月6日以降、29回を投げて自責点が13だから、防御率が4.03の計算になる。

 こちらはまあまあの数字だが、もう一方の柱マイケル・ピニェーダ(7月26日まで8勝7敗、防御率=3.64)の崩れ方がひどい。7月6日以降、15回3分の2を投げて自責点が19ということは、この間の防御率が10.92。平たくいえばボコボコの状態である。打線はもちろん貧しいまま(今季のチーム打率=2割2分6厘、出塁率=2割8分9里、長打率=3割3分4厘。いずれもリーグ最低)だから、これでは勝てるわけがない。

マリナーズ改革の柱とされたフィギンスの大ブレーキ。

 打てないのはイチローひとりではなかった。

 たとえば二番打者に予定されていたショーン・フィギンスの大ブレーキ。

 1割8分の打率も眼を覆いたくなるが、2割3分3厘という出塁率が低すぎる。四球を選ぶ能力の高い選手('09年には101個)がこの数字というのは、根本的に問題があるのではないか。

 そもそもフィギンスは、2010年にマリナーズが打ち出した「新機軸」の要になるはずの選手だった。守備力と機動力を高め、投手力で勝負する戦略。ピッチャーズ・パークとして知られるセーフコ・フィールドの特徴を生かす意味でも、足が速くて守備の巧いフィギンスはイチローと並んで重要な位置を占めると期待されていた。

 フィギンス自身、「イチローがバットマンなら、ぼくはロビンさ」と前向きのジョークを飛ばしていたくらいだった。

イチローの選手生命を延ばすには、チームの好調さが必須条件。

 が、このプランは画餅に終わった。

 正直な話、球団首脳陣も新戦力がここまで打てない(しかも2年つづけて地盤沈下だ)とは思っていなかったのではないか。今季の打線を見ても、スモーク、カスト、グティエレスといった主軸級がそろって2割前後の低打率にあえいでいる。その象徴がフィギンスというわけで、これはもう、チーム全体をオーバーホールするしか解決策は残されていないのだろうか。

 ただし、若手の台頭を待つにはどうしても時間がかかる。

 イチローというチームの至宝をどう処遇するかも、大きな問題になってくるだろう。

 イチロー個人の選手生命を延ばすという観点からしても、チームの低迷はけっして歓迎すべき事態ではない。さあ、困った、マリナーズ。この連敗が示唆する未来は、思った以上に困難なものかもしれない。

17連敗。
負の連鎖を何処で断ち切れるかだと思うけど・・。

暗黒の稲妻