米大陸最古の芸術はマンモスの彫刻
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 6月23日(木)20時8分配信
写真を拡大

マンモスの姿が彫刻された大型動物の骨。最新の調査から約1万3000年前の作品と断定された。
(Photograph courtesy Chip Clark Smithsonian Institute)
マンモスの姿が彫られた動物の骨がアメリカ、フロリダ州で数年前に発見された。年代について最新の調査が行われた結果、アメリカ大陸最古の美術工芸と判明した。
この骨は2006年から2007年にかけてフロリダ州中東部のベロ・ビーチ近郊で発掘され、表面にはマンモスの歩く姿が刻まれている。発見当初から約1万3000年前の彫刻と推定され、専門家による特定作業が続けられてきた。そして今回ようやく複数の年代測定により、当初の推定が正しいと確認された。
調査に参加したスミソニアン国立自然史博物館の人類学者デニス・スタンフォード氏はこう話す。「非常に素晴らしい発見だ。洞窟の壁や動物の骨に描かれた長鼻類(長い鼻を持つ哺乳類)の姿は、ヨーロッパで数え切れないほど発見されているが、アメリカでは今回が初めてだ」。
しかもマンモスの姿形は、ヨーロッパで発見された彫刻や洞窟壁画とは趣を異にするという。調査チームのリーダーで人類学が専門のフロリダ大学名誉教授バーバラ・パーディー氏は、「旧世界から受け継いだ美意識の記憶も感じられるが、当時のアメリカ大陸には、独自の美術工芸を生み出した人々が存在した可能性が高い」と述べる。
◆アメリカ大陸最古の美術工芸は本物と断定
骨の法医学的な予備鑑定が初めて行われたのは2009年。パーディー氏によると、「彫刻は偽物だという前提で鑑定が始まった」。
だがパーディー氏は、予備鑑定と同博物館の調査チームが行ったより詳細な分析結果から信憑性の高さを確信した。「もちろん疑わしい点はいくつか残っている」としたうえで、同氏はこう説明する。「骨や彫刻の年代を特定できない以上、間違いなく本物だと証明する方法はただ一つ。何度も発掘を行って他にも標本を見つけるしかない」。
幸いにも、マンモスの骨が発見された一帯は、かつて巨大な獣が生息しており、氷河時代の狩猟民も生活していた。パーディー氏の調査チームは付近から動物の骨をいくつか発掘し、彫刻が施された骨と成分を比較した。
また同時に、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使って彫刻の細部も調査した。その結果、骨に刻まれた溝と周囲の物質との間に、色が不連続に変化している部分はなかったという。これは、溝と周辺部の表面の経年変化が全く同一であること、すなわち骨の年代より後に金属器などで彫られた溝ではないことを示唆している。
長さ38センチの骨は、専門家の調査からマンモス、マストドン、巨大ナマケモノのいずれかであることも既に判明している。現在のフロリダ州一帯では、3種類の動物は約1万2000~1万年前の最終氷期末期に絶滅しているという。
◆彫刻が施された骨は「人類共通の財産」
骨を発見したのは地元の化石ハンター、ジェームズ・ケネディ氏。2009年、台所のシンク下に放置していた骨を数年ぶりに取り出し、表面に降り積もったほこりを取り除いて初めて彫刻に気付いた。「こんな大事になるとは思ってもみなかった。アメリカ大陸でこの種の彫刻が見つかるのは初めてだと聞いたときは、心臓が止まるかと思ったよ」。
一方、フロリダ大学のパーディー氏は次のように語る。「この彫刻を通じてアメリカ大陸土着の芸術性を初めて目にした。同じような古い骨を詳しく調査すれば、新たな発見が期待できる」。
マンモスが彫刻された骨は現在、引き取り先未定のまま貸金庫に一時保管されているが、パーディー氏は博物館での所蔵を望んでいる。「誰のものでもない、人類共通の財産と考えるべきだ」。
今回の調査結果は、「Journal of Archaeological Science」誌オンライン版に6月12日付けで掲載されている。
Christine Dell'Amore for National Geographic News
最終更新:6月23日(木)20時8分
記事の写真を見る限りでは可也保温状態がよかったんだろうか。
これを見つけたケネディ氏もさぞ驚いただろうね。
暗黒の稲妻