南極海に栄養豊富な藻類の“プール”
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 3月1日(火)18時6分配信
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南極海の氷に囲まれた「ポリニヤ」のエメラルドグリーンの水。
(Photograph courtesy David Munroe USAP)
 氷に覆われた南極海で、生命あふれる鮮やかな緑色の“プール”が見つかった。地球温暖化にとって朗報となる可能性もあるという。

 南極の太平洋方面に面するアムンゼン海には、多様な植物プランクトンや小型の藻類が繁栄する海域があり、海水に含まれるクロロフィル(葉緑素)が水面を鮮やかな緑色に染めている。藻類を捕食する動物プランクトン、小型甲殻類のオキアミ、魚やエビの幼生も生息している。

 アムンゼン海の「ポリニヤ」を対象に最近実施された調査探検で、繁茂状況が明らかになった。ポリニヤとは、季節的に発生する氷に囲まれた海水域で、冬でも水が凍らない場所だ。

 アムンゼン海ポリニヤ国際観測隊(ASPIRE:Amundsen Sea Polynya International Research Expedition)の主任科学者パトリシア・イエーガー氏は、「幅数百キロにも及ぶポリニヤは栄養豊富なオアシスで、動物にとっては避難所となる」と話す。ASPIREはアメリカ国立科学財団(NSF)とスウェーデン極地研究事務局(Swedish Polar Research Secretariat)が資金提供している。

 凍らない海水域の形成には2つの要因がある。氷を沿岸から遠くへ流す風、そして、深層から湧き上がる比較的高温の海水や暖かい空気が氷の一部を溶かすのである。

 夏になって周囲の氷が溶けると、微量栄養素が海に拡散し、藻類の大群に供給される。微量栄養素とは、量はわずかだが植物の成長に欠かせない鉄などのミネラルやビタミンを指す。

「地球温暖化の影響で南極大陸西側の氷が溶け始めると、海に流出する微量栄養素が増えるため、藻類が大量発生する可能性がある。藻が吸収する二酸化炭素量の増加につながり、ある程度までなら気候上の朗報と言えるかもしれない」とイエーガー氏は語る。

 イエーガー氏のチームでは2003年、リモートセンシング(遠隔測定)データを使ってアムンゼン海のポリニヤを生命の豊富な場所と特定していた。

 2010年11月~2011年1月には2隻の観測砕氷船で調査を実施し、ポリニヤから初めてサンプルを採集した。表層水のサンプルを分析すると、1リットルあたり45マイクログラムのクロロフィルが検出された。アマゾン川河口付近の栄養豊富な海域「アマゾン川プルーム」の5倍を越える水準だ。

「まったくの想定外だった。これほど栄養豊富な海は世界的にも珍しい」とイエーガー氏は予備調査報告書で述べている。

 アムンゼン海のポリニヤは大気に含まれる二酸化炭素の吸収率も非常に高いという。ポリニヤ付近の二酸化炭素レベルは100ppmで、同氏の経験では最も低い数値だった。通常の大気中のレベルは390ppmだ。

「二酸化炭素を消費する生物活動が活発に行われていることを示す」と同氏は説明する。光合成の際、藻類は太陽の光エネルギーを利用して大気中の二酸化炭素と水から炭水化物を作り出す。しかし、藻類は“草食動物”である動物プランクトンに捕食される。動物プランクトンは呼吸時に二酸化炭素を大気に戻す。

 さらに、イエーガー氏が“海のコンポスト”と呼ぶプロセスも起きる。バクテリアが枯れた藻類を分解すると炭水化物が二酸化炭素に還元し、振り出しに戻ることになる。ポリニヤでは、藻類、動物プランクトン、バクテリアの綱引きが絶えず行われており、大気中の二酸化炭素の海水への吸収率も変わってくる。

 二酸化炭素の吸収率が高いポリニヤが拡大すれば、地球の気候にとっては好都合だが、それにも限界がある。このまま温暖化が進行すれば、海氷とともにポリニヤも消滅してしまうからだ。閉じ込める氷がなくなれば、微量栄養素は溶けた水とともに大海に拡散してしまう。

「ポリニヤは微妙なバランス上に保たれている。温暖化で氷が溶けるほどポリニヤは大きくなるが、度が過ぎると両方消えてしまう」とイエーガー氏は指摘した。

Christine Dell'Amore for National Geographic News

最終更新:3月1日(火)18時6分

自然界の事は自然界に。
過度に期待し過ぎるのもどうなのかとは思うが。

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