【日本版コラム】「代理」ロボット─相次ぐ製品化でブーム到来か?
ウォール・ストリート・ジャーナル 2月4日(金)10時30分配信

 1月最後の日、ロボットと一緒に買い物に行った。

 ロボットの名前は「QB」。シリコンバレーのベンチャー企業、エニーボッツ(Anybots)が開発し、今月出荷を開始した製品だ。

 QBは米国で「テレプレゼンス・ロボット」と呼ばれているロボットの一種だ。離れた場所にいる人がインターネットを通じて操作でき、その人の代わりにそこにいる人々と会話することを目的としたロボットで、「代理ロボット」とも呼べる。QBの左目にカメラが設置されており、そのカメラの映像が操作者の画面にリアルタイムで映し出される。

 この日、同社創業者のトレバー・ブラックウェルさんが地元のショッピングセンターで買い物をするにあたり、アシスタントのスザーン・ブロカートさんに見てもらいたいものがあるという。ただ、彼女がいるのは、そこから80キロメートルほど離れたホームオフィス。スザーンさんはQBを使って「一緒に」買い物に行くことになり、私にも同行しないかと声を掛けてくれたのだ。

 スザーンさんとQBはインターネットと無線LANでつながっており、遠隔地から「Mac(マック)」のブラウザーと矢印キーを使って簡単にQBを動かすことができる。

 「ファッション・センスの良いスザーンにアドバイスをもらいたい」と立ち寄ったのがサングラスのお店。ブラックウェルさんはQBの前でいろいろと試してみるが、なかなかスザーンさんのお眼鏡にかなうものが見つからない。

 サングラスはあきらめて、隣の売店に目をやると、エスニック調のバッグが並んでいる。「実はQBが持ち回れるバッグを探していた」とブラックウェルさん。店員のサイエッド・アンサー・フセインさんは「すごい!別の場所にいる人の意見を聞きながらショッピングができるなんて最高。110%、感心した」と興奮を隠せない様子で次々に商品を見せてくれた。QBにはスピーカーとマイクがあるので、スザーンさんは店員とも問題なく会話ができる。結局、ブラックウェルさんはQBに巻き付けられる肩掛けバッグを購入することにした。

ロボットを使って海外出張の数を減らす

 「QBは車輪に乗った移動型テレビ会議システムだ」とブラックウェルさんは言う。世界各地に事務所や工場が散らばる多国籍企業を第一の潜在顧客と考える。出張しなくてもQBを使って支社を回り現地社員とのコミュニケーションをはかったり、海外の工場の様子を定期的にチェックしたり、といった利用方法を提案している。展示会などの会場に来られない人に「時間貸し」するといった事業モデルもあり得る。QBの価格は1万5000ドル(約120万円)。日本でも代理店を通じて購入可能だ。

 このところ、こうしたテレプレゼンス・ロボットの商品化のニュースが米国で相次いでおり、ちょっとしたブームになりつつある。「QB」のほか、「Vgo」、「TiLR」といった製品が発売され、以前コラムで取り上げた、ウィロー・ガレージやアイロボットも商品化に取り組んでいることが明らかになっている。

 Vgoを昨年11月に発売したVgoコミュニケーションズはニューハンプシャー州にあるベンチャー企業だ。 同社はテレビ会議システム会社のピクチャーテル(後にポリコムが買収)の最高技術責任者(CTO)だったティム・ルート氏(Vgoでも同職)が、アイロボット出身の2人と共同で設立した。創業メンバーが持つテレビ会議システムとロボット生産のノウハウを持ち寄ることで、5000ドルという他社に比べて安価な製品を売り出すことができた。従来型のテレビ会議システムの販売代理店を通じて売り、顧客から年間1200ドルの維持費を取るというユニークな事業モデルを持つ。

 代理ロボットを操作してみる

 同社に取材を申し込んだところ、Vgoを通じてルート氏をインタビューさせてもらえるという。まずはロボットを操作するためのソフトウエアを同社のサイトから私のパソコンにダウンロード。ソフトを立ち上げると、西海岸のホームオフィスにいる私はたちまち、東海岸のVgo社内のロボットに「乗り移る」ことができた。

 ルート氏はまず私に社内を見学させてくれた。私のパソコン画面に半円が映し出され、そこにマウスを使って画面の矢印を動かすと、進む方向とスピードを調節できる。半円の外側に矢印を持って行くほど移動が速くなる。進行方向の曲がり方に慣れるのに少し時間がかかるが、操作はいたって簡単だ。同氏の後ろをついてオフィスの中を移動して行くと、社員たちが「ハーイ!」と手を振ってあいさつをしてくれた。

 会社の様子を知る上では、もちろん現地で取材することにはかなわないが、電話インタビューよりはずっといい。私のパソコンにはあいにくカメラがついていないが、あればルート氏からもVgoのスクリーンを通じてこちら側の様子が動画で見られる。

 普段は外に出られない人々にとっても代理ロボットは有力だ。テキサス州に住む高校1年生のリンドン・ベイティー君は病気で体の免疫系が機能しないため、外出が難しい。昨年1年間はずっと家と病室で過ごしたという彼がこのほど、Vgoを使って初めて学校に「行く」ことができた。このニュースを報じた地元テレビ局の映像をここで見ることができるが、ロボットを通じて授業に参加し、友達や先生に会えるようになったリンドン君は本当にうれしそうだ。

 「今後1-2年内にVgoを日本でも発売したい」とルート氏は語る。

 代理ロボット市場が立ち上がるかどうか、成功を左右する大きな鍵は、安定的なネットワーク接続の確保だ。そういった意味では世界的に見て高速モバイル通信網が発達している日本でこそ、代理ロボットの威力が発揮される可能性が高い。

 人間がロボットを遠隔操作し、ロボットが人間の社会生活をすべて代行する近未来を題材にしたSF映画「サロゲート」(2009年)。映画に出てくるロボットと比べると、実際の製品はまだ技術面で程遠い。しかし、通信とロボットの技術の融合で、人間があたかも2つの場所に同時にいられるようになることは分かった。

 あなたなら代理ロボットをどう使いますか?


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影木准子(かげき・のりこ)
北 海道大学工学部を卒業後、日本経済新聞社で13年間、記者として働く。うち1997-2001年の4年間は同社シリコンバレー支局勤務。現在はシリコンバレー在住のフリーランス・ジャーナリスト。コンシューマー向けロボットの開発・市場動向に最大の関心があり、この分野の米国を中心とした海外における最新 情報をGetRobo Blog(http://www.getrobo.com/getrobo_blog/)などで発信している。

最終更新:2月4日(金)10時30分

こういう記事は写真つけて欲しかったなと思うんだけど。
何で写真が無いのかねえと文句を言った所で始まらないんだが、何となく10数年前の記事にも思えてしますのは気のせいだろうか。

暗黒の稲妻
BGM:London Improv 2: C Blasticum Cage(ByKing Crimson)