声劇台本

「無題」

不問1人(昔を思い出すナレーターのような私とその無題の作品名をつけていた時の私で。)

女の子役1人(セリフしかなく少ないです。)

1人2役でも全然OKです。


「んー…さて…この絵画の題名をどうするか…」

私は悩んでいた。
実は今度自分で美術展を初めて開けることになったのだが、その美術展でおそらく一番目玉となるであろう大きな絵画の作品名が決まっていなかったのだ。

「いや…こんなに決まらないなんて…」

私はそもそもこの絵画をどうして目玉にしようかと過去の記憶を呼び戻そうとしたが、時は既に遅し。
芸術とはその場その場のインスピレーションからきているのだから決まらないのも当然だ。
やはり長く芸術と向き合うほど芸術が分からなくなるものでもある。

ふと、私は思った。
「無題…っていう作品名はどうだろう?」

無題…この美術展での目玉の絵画に無題なんて作品名で良いのか…?
そもそも、題がないから無題なのか無題という名の題なのか…?

確かに私は題が思いつかなくて無題にしようとしている…けれどこの絵画も絵画でこんなに題が思いつかない絵画があっただろうか?

もうこれは運命なのでは?無題という作品名はまさに、この絵画のためにあったのでは?
そんな思いが私の頭の中に駆け巡り…

結局、目玉を飾るための絵画は人目につかない広いスペースにポツンと「無題」と書かれた絵画が寂しく飾られることになった。

「うん…しょうがない…」

そしていよいよ、美術展の日「無題」の絵のスペースには誰も居なかった私が思い入れを込めて描いた無題の絵を見つめていると、小さな女の子が1人入ってきた。

女の子は感じが読めないのか、作品名の所を見ると私に話しかけてきた。

「ねぇ、この絵のお名前はなぁに?」

私は無垢な少女に真実を告げるのは如何なものか…と、思ったが誤魔化す必要も無いのでありのままを教えることにした。

「この、絵には…名前が無いんだ…だから、ここに飾られてる…」

私がそう言うと、少女は少し考えてやがて、ハッとしたように顔を上げた。

「じゃあ私がこの絵に名前をつけてあげるっ!」

「ありがとう…なんて名前をつけてくれる?」

「この絵の名前はね…___」

あれから数年。今ではあの絵はどんな美術展でもみんなが見てくれるような、とても人気で目玉の絵画となった。