過去3 | EGO

過去3

楽しい時も辛い時も どんな状況に置かれ様が壁を乗り越えてきたつもりだった

シルバーの方は一年一年で他ブランドとは一線を画す程の勢いで成長し 全国に次々と委託商談に立ち向かい撃破していった

鋳造も個人で行い
全てが全て 責任を背負いシルバーへの想いを募らせていた

鋳造とは銀を作品に流す工程であり 一般的には業者の外注を通すのだが
この時点で『自分で創りあげる』という理念に背く事と悟ったために個人で行うことにした

そこらへんの雑誌に出てるような能無しじゃ到底理解できないであろう

ワックス彫ってればデザイナーみたいにうたっている連中が俺には『お遊戯』にしか見えない

どこまで自分と向き合うかがデザイナーではないのか

果てしなく考えさせられてきた



しかしこんな風にシルバーに熱を入れ過ぎ 大事な存在が盲点となってしまっていた…

最愛の彼女に孤独な思いばかりをさせてしまっていたのだ…

何を話してもシルバーの話に彼女は自分が見られていないのではないかと不安にさせていたのだろう…

後ほど家庭の事情で実家に帰ることになった彼女

俺は制作と商談のピークに達しており 好都合だったが
一人になってからというもの それこそ彼女に一秒でも時間を作ってやることさえできなかった…

本当にばかだった
あの時 もっと彼女の身になってあげれたなら 苦しい思いをお互いしなくてよかったのに…


彼女は実家のお手伝いをしながらパートで生活を補う日々
一人の男性が声をかけてきたという
最初は断ったのだが男は執拗に彼女に迫る
仕方なくドライブだけでもと誘いに乗ってしまったのが運命の分かれ道だった
その後は男の好都合になった


一週間は音信不通になっていた彼女とようやく連絡がつくが様子がおかしい…電話越しでただただ泣く彼女がいる
俺は瞬時に全てを理解した
認めたくないが理解してしまった

胸が沸騰するかの様なあの苦しさは死ぬまで忘れることはないだろう


彼女は男に騙され上辺だけの恋愛に振り回されていた
彼女はたださびしいから…そんな時こそ嘘と知っていても優しい言葉に溺れたかったのであろう…

昔の俺自身を思い出した


だが俺は本当に愛していたはじめての彼女を取り戻すべく 刃物を持ち 彼女の実家へと向かう

その男と勝負するつもりでいたのだ

彼女が大事なら 指を切り落とす
この駆け引きで男を追っ払うつもりでいた


しかし運命とは不思議なもので彼女の実家につくなり 男はいなく 彼女だけがいた
その事を明かし
彼女は困惑する

俺は明かした瞬間に後悔してしまった…

結局 俺の一人よがりだったということを…

彼女を取り戻したいがために彼女の気持ちも考えないで指を落とすだなんて…
そんなことしか頭が回らない自分の小ささを知った

だがここでお互いに自分の意見を本音で喋ることができ 仲は中和した


彼女とは結局別れたが一ヶ月は苦しい思いをした

生活の身の回りのもの全てが『思い出』だから

音楽も本も 机の片隅にある備品ひとつも…全てが彼女と過ごした日々の結晶だから
胸が痛かった



続く