泣きじゃくる顔。
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさいっ・・・・・・」
ひどく震えているのに、まっすぐに視線が届く。
(泣くな。泣かないでくれ)
思いは声にはならず、静かに視界は閉ざされていく。
その体を抱き締めたい。溢れる涙を拭ってやりたいのに。
意識はただ、底さえ見えぬ闇に沈んで消えていった。
「・・・ッ!!」
バッと跳ね起きる。汗が額を伝い、寝起きの気分は最悪だった。
何故なら、夢を現実かと錯覚しそうなほど鮮明に覚えているから。
心臓から凍りつくような冷気が漂ってきそうで、胃がムカついてくる。
「・・・克哉君?」
いつの間にか隣で眠っていた筈の片桐が心配そうに顔を覗きこんでいた。
AM2時半・・・起こしてしまったのは間違いなかった。
克哉は荒い呼吸を収められないまま、彼を抱き締める。喉を締め付けられるようで、声
さえ出ない。
「えっ!?どうしたの!?」
驚いて腕の中でもがくが、更に力を籠め、離さない。
それはまるで溺れている者がするかのように、必死に。
「・・・・・・克哉君、どうしたんですか?」
離されないと知ると、片桐は年下の恋人を宥めるように髪を撫で始めた。幾分か驚きは
薄れたようだ。
動揺する彼を見るのは珍しい。けれど驚くより先にしなければならない―――、不安そ
うな彼に少しでも楽になってほしいと、伝えるように優しく片桐は在る。
「・・・怖い夢でも見たんですか?」
僅かに肩が震えた。密着していなければ、気づかない程だが、その振動は確かに肯定だ
った。
「話してください。君が苦しんでいることを僕に」
痛い程の抱擁は少しだけ緩んでいた。
「・・・貴方を傷つけて、めちゃくちゃに抱いて、それでも貴方は縋ってきたのに俺は
・・・・・・捨てたんです。」
苦々しく言葉を吐き出すのは、今の彼等に夢と同じ過去があるからだった。片桐は案の
定思い出したのかひどく震えたが、それでもしっかりと克哉を抱き締め返す。
平気だと言っているようだ。
「貴方は俺を刺して、泣きながら謝り続けるんです。自分が悪いと何度も、何度も。何
も悪くはないのに」
「でも僕が君を・・・刺したんでしょう?それなら・・・」
「いいえ。そうするだけの理由が貴方にはあった。・・・だから良かったのに」
言外に殺されてもいいと告白され、片桐の心は激しく揺れた。
喜悦で。
それは、全てを与えるという言葉。
「だからその頬に触れて、震える躰を抱き締めて、泣き止ませようと思うのに、俺の体
は動かなくて・・・悔しかった」
抱き締める腕に力が入る。しかし今度は片桐は何も言わなかった。苦しいけれど、もっ
と苦しくなりたい。
その嘆きが愛しいと心にじわじわと広がっていく。
片桐は肩に擦りつき、そっと耳元に告げる。
「でも僕は今、幸せだよ。とても・・・克哉君と一緒に居られて、幸せだ」
「・・・稔さん」
「もう僕は君以外いらない。君が居るだけで、こんなにも満たされているんだよ」
ただ恐怖と後悔の連続でしかなかった毎日が、今ではもう思い出せないほどに遠いもの
となっている。
例え、今に至るまでに何があったとしても、手離せないものだ。
「愛しています。だから・・・泣かないで」
触れる唇に、眠りの呪文をかけよう。
悪い夢を追い払うための。