5歳くらいの男の子が、1枚の赤い折り紙を持って俺の前にやってきた。

何かのカタチに折ったつもりなのかどうかはこの時は分からず、ランダムに数回ほど折り曲げているだけの変な赤いものにしか見えなかった。


「ティラミーゴ強いの知ってる?」


…知ってるよ。

古代白亜紀の覇権を握っていたというティラノサウルスがモチーフのアイツ。

因みにティラノサウルスがモチーフのレッドの元祖はティラノレンジャーで、守護獣ティラノ。次はアバレンジャーで爆竜ティラノサウルス。次がキョウリュウジャーでガブティラちゃん。そして恐らく戦隊マスコットロボの中において屈指の凶悪顔だけど、ホントはとってもやさしくてとってもカワイイ、あの

ティラミーゴのことでしょ?

知ってるに決まってるやん。

なめんなし。

ティラ男よ、乗ってやる。


「知ってるよ、キシリュウオーに変わったらもっと強いもんな!」

「違うよ。ビルの間走る、早い。ティラミーゴ。大っきい。強いし。ティラミーゴ。知ってる?」


若干、会話の噛み合わせがよろしくない。


「どれくらい強いよ?」


ティラ男(便宜上の命名)のペースで進行させる。俺はそれなりに空気も読む。



「ティラミーゴに噛まれたら負ける?」



質問に関しては相変わらず噛み合わないが、


「負けるなぁ。歯いっぱいあるしなぁ」


と返すと、ティラ男はかめはめ波みたいな構えから俺の腕に手の指の部分で噛み付いてきた。


「お、それ、ティラミーゴか?」

「そう」

「全然痛くない。ティラミーゴそんな弱いんか?」

「ティラミーゴ強い」


表情は変えないよう気張って力を入れ俺に噛み付いているが、申し訳ないけど俺にダメージはほとんど入っていない。


「おじちゃん、これならティラミーゴに勝てるわ」


俺は、こんな時に『あっ痛い痛い』とか『ぐわ、ヤラレタ』とか言って浮かれさせたり甘やかしたりするスタイルは取らない。『強者は強し、故に強者』よ。という王者の歩みを提唱するスタイルを取る。

それからもティラ男はしきりにティラミーゴの強さを力説し、そして俺はそれをことごとく否定した。『強さ』というものを相手に納得させるためにはそれなりの力による説得力を必要とする。

がむしゃらに『ティラミーゴは強い』と叫ぶだけでは彼のティラミーゴ愛は俺に伝わらない。

だが、そんな敬愛の訴えを聞いているうちに俺は理解した。

ティラ男が持っているあの謎の赤い折り紙はおそらく、彼のイマジネーションから誕生した愛の結晶、ティラミーゴそのものだという事を。


「ティラ男では俺には勝てない。本気になったティラミーゴの強さを見せてみろ」


俺は甘やかさない。たとえよそ様の子供だろうが、俺が相手をする以上は『考えて生きる』ことを放棄させない。

彼はおそらく考えた。

そして彼は判断した。


彼は、赤い折り紙を握りしめて、力いっぱい俺の上腕三頭筋と上腕二頭筋の境い目辺りを殴ってきた。










普通に痛かった。










「ごめん、ティラ男。ティラミーゴすごい強いな。おじちゃんの負け、ぐぼぁ!」


ティラ男は特に何も言わずに俺の元から去っていった。


俺とティラ男との関係はこの数分間のみだ。

ティラ男はもしかしたら、俺のことを嫌いになったかもしれない。

でも、やつが大人になっていく過程、或いは大人になったある時に、

『あの時のあれが、強さというやつカモ』

と、1ミリくらい思ってくれればイナフだ。


だが、俺は決して忘れない。

彼の強いイマジネーションによってオリガミティラミーゴが生まれ、その彼の強さの象徴であるティラミーゴの強さを自分の思いで俺に伝えた。

ティラ男にとっては、キシリュウオーやリュウソウジャーはティラミーゴの強さを推し量る物差し程度のものでしかなかったのだ。多分。

そう、

そう、

そう、

ソウル、ティラ男とティラミーゴ、ソウルを1つに。

この感じ、ケボーン。











少女(レディなので推定年齢も伏せておく)は俺の前に画用紙とそれなりに使い込んでいるクレヨンを一箱持ってやってきた。

「なに描いてほしい?」

子供、とりわけ女児は良い。

自分の思いを端的に伝える。


「好きな花とかある?あったら描いて」


レディには極力紳士的に接するのが俺の流儀。


「うんとねー、花は描けない。ほかは?」


はにかみながら俺に訴え、そして即座に次の提案を催促してくる。

もう、かわいいなぁ。

それに、大人でも子供でも、話の早いやつは好きだ。

…俺は天海祐希が好きだ。

一応念のために俺がロリコンではないことも記述しておく。


「一番好きなもの描いて」


レディは返事もなしに描き始める。

俺のこの言葉を待っていたかのように。

子供のこういう無邪気さが好きだ。

…俺は木村佳乃とかが好きだ。

一応念のた(割愛)







…Oh...



「これはだれ?」


知っていて俺は訊いた。


「キュアソレイユ」

どうやら、レディが一番好きなものはキュアソレイユらしい。



ふ...

奇遇だな、レディ。



レディ自身に興味が生まれたのは言わずもがな、そのカラーチョイスも気になって思わずクエスチョン。


Q.「なんで顔、赤いの?」


A.「太陽だから」


レディ、アンサー。




これや!

こーゆーやつや!

俺が欲しいピュアなレスポンスはこーゆーやつや!

キュアソレイユとは太陽。

彼女こそ太陽の女神。



レディは自分の好きなものを、目の前にある方眼紙という世界に数本のクレヨンで思い描き出した。


叶わぬ恋だが、とりあえず惚れておいた。


レディは既にキュアソレイユの存在の全てを閲覧していたのだ。

俺はまた新たに理解した。




これこそが『イマジネーション』である。



と。





わざわざ説教臭く『イマジネーション』などと言わなくても、子供たちの頭の中で自分の思い描くストーリーが常に渦巻いている。

それがいつしか、インターネットなどの媒体で知り、やがて知り尽くし、経験の有無にかかわらず『想像』という領域は『知識』という領域に推移していく。

そのほとんどが活字と画像によるニワカ知識だという事を知らないままに。

この世にまだ認められていない、存在していない、いわゆる『空想』という言葉を聞かなくなって随分と久しいが、子供たちのこういった想像力を伸ばすために俺たち大人がどうやってその橋渡しをするのか。

シンプルにかわいい、強い、カッコいい、すごい。

これを子供たちに突き付けられる大人がたくさんいれば良いな、と。

俺もそういう大人になろう、と。

年は食っても、小さな子供から学ぶことは永遠に尽きることは無い。


そんな風に肝に銘じた今日この頃。