昭和38年に学校法人北陸大谷学園が設立されました。同年に北陸大谷高等学校として、本校は歩み始めました。学園だより「ともがき」や本光寺「光雲」紙などにも、設立までの紆余曲折は少し触れたのですが、決して当初は順風満帆ではありませんでした。

 

 話は遡りますが、2007年5月に発生した能登半島地震後、石川県全域にわたって学校校舎の耐震度調査が実施され、本校の校舎の状態は、『倒壊の危険性が高く、早急な対策が必要』との指導を受けました。さて、どうしたものかと、思案に暮れました。そこで、5つの選択肢を考えました。まず、私の任期満了まで、この事態を看過する、耐震工事をする、移転地を探す、学校法人を解散する、新校舎に建て替える、というものでした。結局、苦渋の末、建て替えることに踏み切ったのですが、かなりの資金不足は明白で深刻なものでした。藁にもすがる思いで4000軒を超えるお宅を来る日も来る日も個別訪問をし、募金活動を続け、また本校卒業生や教職員OB,企業などに支援を求めましたが、それでも足らず、私はこの事業責任者として多額な個人債務を背負うことになりました。幸い、何とか建設費の目途が立ち、漸く2013年3月に新校舎を完成させることができました。

新たに「小松大谷高等学校」として生徒募集を始めたわけですが、最初の数年間は、生徒は思ったほど集まらず、不安な日々を送ったことが今では懐かしく思い出されます。

 

 60周年の節目を迎え、現在949名、1・2年生それぞれ9クラス、3年生8クラス、計26クラスを抱える、加賀地区随一の高校となることは、本当に予想もしなかった、本当に夢のようなことであります。

 

 「世に出てこの人あり」と言われる生徒になって欲しい、この強い思いは、いつ何時も変わることはありませんでした。長い年月をかけ、一つの思いが実を結んできたのではないかと自負しております。また、本日ご列席いただいております、前理事である矢原珠美子様のご尽力により、恵まれた人材が集まり、現在の小松大谷高校を支えてくれている、このことに改めて感謝申し上げます。新校舎ではなく、そういう人たちに現在の小松大谷高校の存在価値がある、そう実感しております。

↑60周年記念式典で握手する理事長(右)と矢原珠美子様(左)

 

 私の願いは、これからの小松大谷高校は、全校生徒が800人~900人を維持した中規模な学校ながら、小ぢんまりとまとまった、しかも皆が明るく活気のあるほっこりとした学校であって欲しい、これに尽きます。

 

 60周年を迎えた今日まで、いろいろなことがありました。大きな出来事はやはりまだ完全な終息とは言えない、コロナウィルスではないでしょうか。今年卒業した生徒たちは、修学旅行はもちろん、ほとんどの学校行事が中止となり、高校生活のきらきらした思い出というものが、これまでよりずっと少なかった学年でありました。感染が猛威を振るい、入院を余儀なくされた生徒たちが出始めた時期に私は、生徒たちに「学校に戻ってきた生徒たちをあたたかい気持ちを持って迎えてほしい」とのメッセージを送りました。

 

 そのコロナ禍の最中に行われた、全国高等学校野球選手権石川大会で、本校野球部が、あの大逆転で星稜戦に敗れ、悔し涙を流した先輩たちの思いを晴らしてくれました。堂々たる試合で、見事甲子園出場を果たし、その甲子園での開会式には木下主将が、「人々に夢を追いかけることの素晴らしさを思い出してもらうために、気力、体力を尽くしたプレーで高校球児の真(まこと)の姿を見せる」という力強い宣誓を行ってくれました。その言葉は、本校関係者だけでなく、コロナ禍で困難に直面する多くの人々に、少なからぬ希望を与えたことは、まだ記憶にあたらしい出来事です。

 

 ある新聞には、私が口にした、「コロナ菩薩」という言葉が載ったこともあります。この言葉は、決してコロナを崇めるものではありません。コロナ禍により、感染者への誹謗中傷が大きな問題となっていました。本来、菩薩というのは、「仏さまになる前の、悟りを求める人」のことです。「コロナ菩薩」には、コロナ禍の中でも、せめて自分の人間性の本質に気づくきっかけになって欲しいとの意味で使い始めたものでした。コロナによって、これまで当たり前と思っていたものが、そうではなかった、一つ一つが大事なものであったことに、私たちは気づかされました。

 

 これからも、私たちはこれまで存在しないものと常に対峙していかなければならない、それを乗り越えることで、また一つ我々は成長していけるものと思っています。 

 

 今、小松大谷高校は明るい、笑顔で満ち溢れた、挨拶の出来る素晴らしい学校との評価を各方面からいただいております。多くの先輩達の努力の結果、今の小松大谷高校があるという、誇りと感謝の気持ちを忘れないでいて欲しいと思います。

そして生徒の皆さんには、それぞれが他人と比べず、自分らしく、ベストを尽くして、これから先の自らの進路の手がかりを掴んで欲しいと思います。そして、自分がやりたい部活動や勉学に、さらに将来を見据えた社会の様々な課題に本校独自の課外活動を通して、高校生の目線で取り組んでくれることを期待します。

 

本光寺前住職 多田 眞

前住職の口癖

勝ち負けはスポーツの世界だけでよい