平手 プロローグ | 日々だらくだるく

平手 プロローグ

これは実話 を基にしたフィクションです。
実在の人物、組織等には一切関係ありません。


目次

プロローグ

1「了見」
2「覚悟」
3「惑乱」
4「翻意」
5「変容」
エピローグ

プロローグ



 なぜ、このようなことになったのか。腕を振り上げながら、川勝鉄也は自問自答した。

 ステレオタイプな答えは「指導力不足」だろうか。なにしろ、自分はこの手を28人に振り下ろさなければならない。

 なにもぶたなくてもすむ問題だ。だがしかし、この場でそれは許されない。なにせ、約束してしまったのだ。体罰を与える、と。

 律儀にそんな約束を守ってどうするのだ。天使と悪魔が告げるその声を、川勝鉄也は必死で振り払った。

自分の料簡を変えるわけにはいかない。変えてしまえば自分の中の何かが壊れてしまう気がした。

 すでに、辞表は書いてある。後は、学校の一番奥の部屋まで持っていくだけで、この学校から去らなければならない。

 いや、それだけではすまないだろう。明日には、地元の新聞の片隅に「また教師による体罰!」の見出しが躍るのは間違いない。

公務員としての経歴にも傷がつく。最低でも懲戒戒告は確実で、しかも公務員は減点式。一生このツケは回ってくるのだ。



 しばらく躊躇していたため、目の前の生徒が目を開き、こちらをいぶかしげに眺めていた。

 覚悟を決めた。

 覚悟を決められる分だけ、自分は幸せかもしれない。「歯ぁ食いしばれ!」と叫び、川勝鉄也は平手を振り下ろした。



1「料簡」に続く


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1「了見」
2「覚悟」
3「惑乱」
4「翻意」
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