旅立ちの理由(ベアトリーチェの関わり)

すでに日は暮れ、私はつらい旅路との、また酷い光景との戦いに旅立つ身支度をしていた。

「おゝ、ムーゼ(ミューズ)よ!
気高い詩神よ!私を見守って下さい。
そして、私の見聞する全てを書き記す言葉を与えて下さい。
ヴィルリギウスよ、
アイアネスでも聖パウロ*1でもない私がどうして冥界を旅することが出来るのですか?
どんな資格があるというのですか?
確かな証でもあるというのですか?
そして、私は果たして生きて帰れるのですか?」
ダンテは不安になり、全てを投げ出してしまおうとした。

「要するに恐ろしいのだな?
その恐れから君を解き放つために教えてあげよう。
私は、お前が誰よりも愛した人、若くしてこの世を去り、
至福の天にあるお方、ベアトリーチェ*2に頼まれたのだ。
なのに何故君はためらう?引き返すつもりなのか?

「おゝ、私を助けた慈悲深いベアトリーチェ!
納得いたしました、ヴィルギリウスよ。
私はもう二度と決心を変えません。行きましょう先へ!我が導師、我が主、我が尊師!」
こうしてダンテは入った、深きに至る荒涼の道に。


*1
聖パウロ=中世キリスト教ではパウロは天国だけでなく地獄へも行ったと信じられた。

*2
ベアトリーチェ=ダンテが一目で「愛」を感じ、その思いを、哲学的理想へと純化させた女性。後に人妻となり24(ダンテ25)で死去。この想いを「新生」に託する。

ベアトリーチェの依頼=ヴィルギリウスが地獄の第一圏・辺獄に仲間と居る時に、光り輝く淑女が天使のような声で語った。
「私の友が荒涼の山裾で災難に会い後退りしています。天国で聞いたときは、私が救うには手遅れでした。どうか全ての手を尽くして友を助けて下さい。」
「解かりました。ただ、敢て地獄へ降り立った訳を教えて下さい。」
「私は神の恩寵により辺獄の焔等が身に及ばないようになっているのです。ダンテを憐れんだ聖母マリアがルチーア(光明の意)に意を伝え、ルチーアがラケーレ(黙想の象徴)と私にダンテの救出を促されたため急いでやって来たのです。」