書く内容や
自分のポジションを変更しなければと
岐路に立った時期があります。
映画のヒットもあって
メディアへの露出も多くなった、
多分、一番、売れていた時期です。
サイン会の雰囲気が
少し変化したのを感じました。
それまではリスカ常習者とか、
凍りついて只、泣くばかりとか、
困った人達が多かったのですが、
一寸、ポップな空気感が漂い始めました。
スターに逢いに来ているような感じ、
カジュアルに参加する人が増えました。
それは嬉しいことでもあったので、
それならば今までのようなもの
限られた人しか
受け入れないものではなく
もう少し間口の広いものを
書かないといけない
のだろうなと思いました。
結局、そうしませんでした。
なんか、違う気がしたのもあるし
そもそもそれが出来るような
作家ではなかったのかもしれません。
この岐路は、創作をする者だけでなく、
ある段階までくると
他の仕事をする人も
経験するものだと思います。
屋台から始めたラーメン屋が評判になり、
店を構えるようになり、支店をだし、
デパートからうちのレストラン街に
出店しませんか?
誘いがくるに至る時とかね。
レストランへの出店は
嬉しいことだし、
端的にいって成功ですよね。
でもそうするには、
やっぱり屋台を一人で
切り盛りしていた
時代とは違うやり方で
ラーメンを作らねばならなくなります。
味や品質に妥協はしないのですが、
屋台の頃と
同じものが出せないのは当然です。
どこかで上手く
マスプロダクト化の
調整をしなければならない。
本当はあの時、
レストランへの出店を
するべきだったのだろうと
今でもよく思います。
バラエティ番組のレギュラーの
オファーを断らなきゃ良かったとか
文壇の中央に積極的に
食い込むべきだったとか、後悔します。
思い返せば、青臭い意地を張りました。
僕がそうなれば
「それいぬ」や「ミシン」を
ボロボロになるまで読んでくれる人は
何処に行けばいいのだと……
しょうもない意地を張りました。
結果、皆が思っているより
僕は意外と貧乏で
老後、大丈夫か?
心配な毎日を過ごしています(笑)。
でもね、
そうしなくて良かったのかもと
今回の「愛蔵版それいぬ」の
サイン会をし、本日、
もらったお手紙を読み終わり、
思い直したりしています。
愛読者の貴方へ――。
貴方の
愛は重すぎますよ(笑)。
とはいえ、そうさせたのは僕だし、
責任はとるしかないですよね。
文学だって所詮は
エンタテイメントですので
軽い気持ちで好きになったり
嫌いになったりすれば良い。
一生、特別だと言ってくれたとて、
歳月が経てば忘れてしまう。
それで構わないのです。
解ってはいるのですけど、
多分、それでも僕という人間は
強欲で神様よりも家族や恋人よりも、
貴方の特別な
存在になりたいのでしょうね。
何様だと
不快に感じる人の方が多いでしょうが、
あのねぇ、自分の文章を
人に読ませようとする人間が
不遜なのは当然なので、
反省はしませんよ。
昨今は推し活なるものが
経済を回すので
僕も推してくださいとか
口にしますが、
お手紙を読んでいると
これは推し活とは
異なるもっとヤバいものだと
痛感します。
文学だって
所詮はエンタテイメントなのですが……
文学には、それだけで片付けられない
ものが配合される場合があり……。
そしてそれを
読んだ人が書いた人に
伝えようとする時、
SNSなど電子媒体では
伝えられないものがあって
表現が下手であろうと、
手紙が一番、
多く情報が詰め込まれるんだろうと。
綺麗な字、汚い字、
素敵な便箋、そうではないもの、
色々ありますが、
読んでいて得心させられます。
電子媒体は
多数に向けて発信するもの
お手紙は
僕にだけ宛てられたものですし
やっぱり破壊力がスゴいです。
ラーメン屋の大将だって
多分、食べログの評価を気にしつつ
カウンター越しに、
汁を全部飲み切った器を置かれ
「ご馳走様!」と言われる時にこそ
快感を覚えるでしょうし。
売れないと
次の本が出せないし
拡散はして欲しいのですが、
本はマンツーマンで書いた者と
読む者が向き合う媒体だし、
限られた人の為の
ものであってもいいですよね。
私だけのものだという
貴方の独占欲に
可能な限り今後も
応えたいと改めて思う。
サイン会の待ち時間、
互いに淑やかに
会釈を交わし合いつつ、
貴方達に野ばらちゃんの何が解ると
意地の悪いことを思う
貴方のことが好きです。
そういうふうに僕は貴方を育てました。
だから益々、貴方が混乱するよう、
一緒に写真を撮る時、
手を握ったり、頭を撫でたり、
狡い攻撃を仕掛けます。
お手紙やサイン会に来てくれた
一人ずつへの返信のつもりで書いたので
長文になりました。
では、またね。
嶽本野ばら
対面の際は二人きり仕様の
会場設定は聖地ジュンクならでは
開始前に少しラクガキしたクマさんのイラスト













