夕方、一人の男が訪ねてきた。両手を腰に当ててずいぶんと横柄な態度。眉間に皺を寄せて険しい表情。これが人ん家を訪ねる態度か。聞けばコイツがこの町の町内会長なんだそうだ。
けさ、町内会の会合があり、わしが年番長に決まったそうだ。そしてわしが町内会を抜けたいと洩らしていることを聞きつけてやって来たのだという。
「ああ、そうなんですか。でもできませんよ。休日も輪番で仕事の日があるんで」(本当に当番で休日勤務がある。嘘ではない。)
と断ったところ
「それはみんな同じだ。あんただけじゃない。みんなやりたくないのを我慢して、仕事をしながらやっとるんだ」
と一向に引き下がらない。
ここに来て3年間、毎年何かしらの役が当たっているし、草むしりに、溝掃除に、神社の掃除に、ゴミ当番に、公民館の鍵当番に、祠の掃除に、祭りの準備に・・・地区の行事があまりにも多すぎる。おまけに2年連続で毎月の広報誌配りもさせられた。
そして来年は年番長?
人のいないところで勝手に決めやがって。
「誰もしないでは町内会が成り立たない。できないは通じないぞ」
と言うもんだから
「できないから町内会を出たいと言ってるんです。町内会加入は義務じゃないでしょうに。入ってない人は他にもいるでしょう!」
と食い下がったら
痛いところを突かれたようで
「入ってないやつなんておらんわ。あんた年いくつだよ?情け無いことを言うな!どうしても抜けたいなら、あんた自身が総会に出て、自分の口で町民みんなの前で脱会を表明したらええがな。そこでみんなが認めてくれたら自由に抜けたらええよ。みんな許さんと思うけどな」
と今度は恫喝。
やれやれ、この令和の時代に、こいつホント大丈夫なの?
あまりにしつこいので法的手段をちらつかせたら、ブツクサ言いながら帰って行った。
こんなに面倒くさいやつは久しぶり。浪人時代、部屋にテレビもラジオもないのに国民の義務だとか言ってNHKの受信料を奪っていったやつ以来だわ。
「あんな輩が近所にいると思ったら怖いよ」とおかんが怯えるので、町内会長を名乗る男に恫喝された旨を市の市民課に報告してやった。
粛清してくれるといいけど。
さて、明日も朝早いし筋トレだけして寝よう。