大会オフィシャルライター森雅史ブログ DNC2013観戦記

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FIFA公認の国際大会、ダノンネーションズカップ2013日本大会の大会オフィシャルライター森雅史の大会観戦記

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決勝大会、


一番最初に会場にやってきたのは


三菱養和サッカークラブ巣鴨
Jr


大槻邦雄監督でした。


まだスタッフのミーティングが行われていた
7時過ぎ、


1人じっとピッチを眺めていらっしゃいました。






 

三菱養和サッカークラブ巣鴨Jrは第1試合。


「関東のチームはどうしても夜型なので」


と朝一番の試合に力を発揮すべく、


この
1週間は9時から練習を組み、


選手たちを慣れさせたそうです。


そのおかげでしょう。


しばらくしてやってきた選手たちは元気いっぱい。


監督が「みんな朝起きれたか
?」と聞くと


「目覚ましですぐ目が覚めました」


と大声で答えていました。


すると監督は


「オレは自分から目が覚めたぞ
!


と胸を張っていましたが、


それって監督が一番張り切っていた


ということなのでしょうか……。






 

監督といえば、


ユニークな指導は


SSS札幌サッカースクールの


鈴木政裕監督。


初戦、
0-1で負けて残り時間が少なくなる中、


ゴール正面で絶好の
FKを得ます。


それまで何も言わずに座っていた監督が


すっくと立ち上がると大きな声で一言。


「おい
!! リラックス!!」。


そこで選手たちはふと我に返ったのか、


見事にこの
FKを決め、


その後逆転に成功しました。


大会中で一番目だった指示だったかもしれません。

 




目立ったといえば、


手の込んだドレッドロックヘアで輝いていたのが、


横河武蔵野
FC Jrの長澤タファリ選手。


他のチームの選手から


「君ってモデルじゃないの
?


と話しかけられるなど人気ぶりでした。


その長澤選手、


930分の時点でもうヨーグルトを4つ食べ、


「一番美味しかったのはぷるぷるしていた桃でした」


とニコニコ答えてくれました。





 

この2日間にダノングループが用意したのは、


ヨーグルト
8880個とエビアン3400本。


ヨーグルトは
5種類で、


プレーン・加糖、


いちご、


もも、


バニラ風味、


それから前週に発売されたばかりの


フルーツガーデン。


この会場で人気だったのは、


バニラ風味とフルーツガーデンで、


いちごも安定した人気を誇っていたようです。


ヨーグルトもエビアンも


次々にみんなの喉に消えていきました。


もっとも、食べ過ぎを恐れて監督たちから


「試合の後だけ食べていい」


と言われていた選手も多かったようです。


 



 

選手たちはきっとヨーグルトを食べて


気持ちを切り替えていたのでしょう。


特に
PK戦で失敗した選手は


責任を痛感して泣きじゃくる子が多かったので、


食べたほうがよかったでしょうね。


その
PK戦で失敗したけれど、


泣かずに前を向いたのが


大阪市ジュネッス
FCの工藤優真選手。


凛々しい態度に感銘して話を聞いてみると


「悲しかったです……」


と最初に語った後、ぽろぽろと涙が。


みんなの前では我慢していたのですね。


でも落ち着いた後に、


「ボールを取られなくて


 いいパスを出す選手になりたい。


 あこがれの選手はシャビです」


と答えてくれました。

 





大阪市ジュネッス
FC


まだ勝ち上がったほうでした。


大会が進むにつれて


次々に敗退していくチームが増えます。


決勝大会では
1日目で12チーム、


2日目の試合でも4チームが


来年のシード権争いから消えてしまいます。


ダノンネーションズカップでは、


そんなチームのみんなで


DNCフレンズ サッカー交流会」


を開催しました。





 

他のチームの選手たちと新しいチームを作り、


ドリブル競争をしたり


ミニゲームやシュートアウトをして


順位を競うのです。

ポイントをためていって

優勝チーム
28名には景品が渡されるとあって、


敗退が決まってしょげていた選手たちも、


この場に来ると元気を取り戻していました。


「この元気さがあれば


 試合に勝てたと思うんですけどね……」


とぼやいている監督さんもいたくらい、


元気あふれるピッチでした。






 

この大会で一番元気あふれていたのは


ヴァンフォーレ甲府
U-12だったかもしれません。


チームができて
4年目、


去年は決勝大会に出たものの、


シード権は確保できず、


今年は予選大会からの参加となりました。


その予選大会でも


決勝大会進出チーム決定戦を
PK戦の末落とし、


失格チームが出たために


決勝大会に進出できたのです。


一度は諦めかけた夢を


もう一度追いかけられるとあって、


欲のない子どもたちが


張り切ってプレーしていました。


そして勝ち上がり、


とうとうベスト
4に進出です。





 

準決勝の相手は名古屋グランパスU-12


日頃から交流のあるチームです。


2度リードされ、2度追いつきました。


そして
PK戦。


なかなか決着のつかない長い勝負になりましたが、


最後はセーブされて夢は潰えました。



「残念でした。


 ここまで選手が頑張ってくれたので


 先に必ずつながると思います。


 こういう舞台で名古屋と


 試合ができてよかったと思いますし、


 光栄でした。


 先輩たちが造ってくれたこの道を


 後輩たちが乗り越えて行ってくれればいいと思います」



西川陽介監督は瞳を潤ませながらも


明るく話して
3位決定戦の準備を始めていました。

 





勝者も輝くけれど、敗者も光を失わない


ダノンネーションズカップを象徴する


一コマだったと思います。


今年もそんなたくさんのストーリーが生まれた大会も


この日で終了。


そして新しいダノンネーションズカップ・ファミリーが


大阪、愛知、宮城、東京、


そして決勝大会の合計で


のべ
2,594人生まれたのです。







決勝大会前、チーム名が変わったクラブがありました。


JSC SAKAI


このチームには奇跡と言ってもいい


ドラマが生まれていました。





 

本当は、


2012年末で解散するかもしれないチームでした。


12月初旬、


それまで本拠地にしていたグラウンドが


月末で使えなくなるという情報が


チームに入りました。


練習場所を無くしては、


もう活動することができません。


どうすればいいのか――。


藤田大輔監督は力の限り存続させる方法を探りました。

 



藤田監督が諦めなかったのは、


監督自身が諦めたらすべてが終わるということを


身を以て体験していたからです。


それは監督の体に起きたことでした。


6年前、別のチームを指導していた監督の頭の中に


こぶし大のガン細胞が見つかったのです。





 

絶望感に襲われていた監督に、


当時
3歳だった娘さんが


「大丈夫
?


と聞いたそうです。


監督は「大丈夫」と返事ができませんでした。


そして、監督からの明るい返事が返ってこないことで


心配した娘さんの姿を見て、


「これではいけない」と思い直します。

 



ですが、


場所が頭の奥深くのため、


手術で除去することができません。


強烈な薬と放射線を当てて


治療することしかできなかったのです。


闘病は激烈でした。


急に鼻血が出てきたり、


シャワーを浴びていたら


浴室がいつのまにか血まみれになっていたり……。

 



ガンが判明した後、


監督は指導を辞めていました。


ですが、


頑張って治療を続けるうち


次第に体が動くようになってきます。


もう一度子どもたちを指導したい――


そう思っていたときに出会ったのが、


今のチームだったのです。





 

指導を続けながら加療するうちに、


レントゲンに移るガンは


次第に小さくなっていきました。


そして
6年前、


「誕生日なのに病院に行くのはいやだなぁ」


と思いながら診察を受けた


藤田監督を待っていたのは、


医者の驚く顔でした。


何度も撮り直してもガンが映っていません。


検査をしても正常値。


いつの間にかガンは消えていたそうです。

 





監督はそのとき、


「このチームと出会ってガンがなくなった。


 これはサッカーをずっと続けろということなのだ」


と思ったそうです。


そしてそれから常にチームとともに行動してきました。


2012年、


そのチームが解散の危機に陥ったのです。


「諦めてはいけない。諦めない限り明日はある」。


監督は手段を模索します。

 






方々探し回るうちに、


監督がボランティアで指導に行っていた養護施設が


グラウンドを貸してくれることになりました。


交流のあった千葉のクラブが


資金援助をしてくれることになりました。


チーム存続のめどは何とか立ちました。





 

ですが、


それまでの人工芝、


フットサルコート
6面という環境は、


土のグラウンドに変わりました。


活動場所も遠くに変わったため、


100人いた子どもたちのうち、


低学年の児童約
30人は辞めざるを得なくなりました。


そんなとき、


ダノンネーションズカップの事務局から


当選の連絡が届きます。






 

新しいチームとして


正式発足できたのが
2013年の2月。


その
1カ月後に予選大会です。


「勝つはずがない。でも何かのきっかけになれば」と、


当日は張り切って参加しました。


迎えたグループリーグ第
3戦、


チームは終了間際に
PKで敗戦しました。


PKのきっかけとなるファウルをした子は


泣きじゃくります。


ですが、


後に考えるとこれも幸運でした。


グループリーグ
1位になると、


圧倒的な強さを見せていたチームとの対戦が


待っていたからです。


強敵との対戦を逃れて、


チームは勝ち上がります。


そしてとうとう決勝大会への切符を手にしたのです。

 




決勝大会第1日目、


JSC SAKAIはグループリーグで12敗と、


決勝トーナメントへの進出はできませんでした。


ですがトーナメントで念願の
1勝を挙げ、


やっと子どもたちに笑顔が浮かびました。


2日目にどんな結果に終わろうとも、


きっとチームはこの
1勝を大切にして


新しい本拠地へと帰って行ってくれるでしょう。








 

ダノンネーションズカップ in Japan 2013


決勝大会
2日目が331日、


東京都駒沢オリンピック公園で開催されました。





 

朝からやや小雨が降りしきる中、


それでも子どもたちは張り切ってピッチに集合しました。


人工芝が雨でどれくらい滑りやすくなるか


確認する姿はプロ選手のようです。





 

この日は、


決勝トーナメント、


来年のシード権を確保するための順位決定トーナメント、


そして敗退が決定したチームのフレンドリーマッチ


が開催されました。





 

準々決勝の組み合わせは、



ヴァンフォーレ甲府
U-12(山梨県)

vs

大山田サッカースポーツ少年団(三重県)、




鹿島アントラーズ
Jr(茨城県)

vs

名古屋グランパスU-12(愛知県)、




横浜
F・マリノスプライマリー(神奈川県)

vs

三菱養和サッカークラブ巣鴨Jr(東京都)、




東京ヴェルディ
Jr(東京都)

vs

鹿島アントラーズつくばJr(茨城県)。



となりました。

 





ヴァンフォーレ甲府
U-12


大山田サッカースポーツ少年団は


スコアレスのまま決着がつかず、


PK戦へともつれ込みます。


3人ずつで決着がつかない熱戦となりましたが、


最後は
7-6でヴァンフォーレ甲府U-12が勝利を収めました。





 

鹿島アントラーズJr vs名古屋グランパスU-12は、


開始早々のゴールで名古屋グランパス
U-12


イニシャティブを取ると、


鹿島アントラーズ
Jrが反撃に出た間に


追加点を奪って
2-0とし、準決勝へと進出しました。

 



横浜F・マリノスプライマリー

vs

三菱養和サッカークラブ巣鴨Jr


三菱養和サッカークラブ巣鴨
Jrの粘りの前に


なかなかゴールが生まれません。


ですが、一瞬の隙を
2回突き、


横浜
F・マリノスプライマリーが2-0と勝利しました。





 

東京ヴェルディJr vs鹿島アントラーズつくばJrは、


東京ヴェルディ
JrPKで先制します。


その後、鹿島アントラーズつくば
Jr


猛攻撃を見せますが


東京ヴェルディ
Jrはじっくりと耐え、


準決勝の切符を手にしました。





 

この結果、


Jリーグの下部組織以外はすべて姿を消す


という展開になりました。


去年の町クラブの勢いに押されていた
Jクラブが


反撃に出た形です。





 

準決勝は、


ともにどちらに転んでもおかしくない戦いとなりました。

 



ヴァンフォーレ甲府U-12


名古屋グランパス
U-12


名古屋グランパス
U-122度リードし、


そのたびにヴァンフォーレ甲府
U-12が追いついて


2-2となり、そのままタイムアップ。


決勝への進出をかけた
PK戦は、6


-5
で名古屋が勝利を収めました。





 

横浜F・マリノスプライマリーが攻め、


東京ヴェルディ
Jrが反攻する


という構図で進んだ試合は、


試合終了間際に横浜
F・マリノスプライマリーが


虎の子の
1点を挙げ、


前評判どおりの強さを発揮。決勝進出です。

 





決勝の


名古屋グランパス
U-12


vs


横浜F・マリノスプライマリー


は試合開始から


横浜
F・マリノスプライマリーがラインを押し上げ


積極的なプレーを見せます。


名古屋グランパス
U-12はその勢いに飲まれたのか、


後手に回ってしまいました。


すると、横浜
F・マリノスプライマリーのキャプテン、


岩井龍翔司選手


FKから約30メートルのロングシュートを決め先制。


また佐藤宇選手が右サイドから豪快に決め、


追加点を奪いました。





 

0-2とされて


ハーフタイムを迎えた名古屋グランパス
U-12は、


後半火がつきました。


相手を押し返すと何度もゴールに迫ります。


すると横浜
F・マリノスプライマリーが耐えきれず、


ペナルティエリアの中で反則し、


名古屋グランパス
U-12PKが与えられました。


この
PKを新玉瑛琉選手が決め、1点差に迫ります。


ですがもう時間が少なく、


この後スコアが動かずに、


横浜
F・マリノスプライマリーが


予選大会方式に変更されて以来初めて


カップ・ウィナーに輝きました。

 





横浜
F・マリノスプライマリー


西谷冬樹監督

「主導権をずっと握りながら


 サッカーできたことがよかったと思います。


 主導権を握りながらゴールを奪えず


 負けてきた経験もあるのですが、


 この大会では、東京ヴェルディ
Jr戦の最後に


 ゴールを決められるというような、


 非常にいい内容で優勝まですることができて


 よかったと思います。


 この大会の雰囲気が素晴らしいので、


 日々の練習の成果を出すことはもちろんなのですが、


 それ以外の子どもたちの


 潜在能力を引き出すことができて、


 監督としてうれしく思っています」




3バックで1トップを受けるという形は


 勝負事なので不安なのですが、


 育成ということを考えると


 
11に強い人材を輩出していきたい


 と思ってそうしています。


 たとえば今日、特別ゲストできていた


 中澤佑二のような選手を


 育てていかなければならないので、


 戦術的に
1枚カバーを置いたり


 逆サイドを絞らせたりしたいのですが、


 育成の観点からあえて
11にしています。


 もちろん
11で遅らせることもしなければならなくて、


 その絵を見て仲間がどうすればいいか


 考えるようにもしたいと思っています」

 


決勝で先制点を決めた


横浜
F・マリノスプライマリーキャプテン、


岩井龍翔司選手



「超うれしいです。


 苦しい場面もあったけれど、


 最後に優勝できてみんなで喜べてよかったです。


 ゴールを決めた瞬間は


 頭が真っ白になって何も考えられませんでした。


 みんなでやるパフォーマンスを考えていたのですが、


 忘れてました」

 


決勝大会を振り返って


日本大会アンバサダーの北澤豪さんは、


こう語りました。



「全体的にレベルの高さがありました。


 少人数制になれてきたという感じがします。


 組織的なプレーと個人の技術の


 両面持っていないと勝ち残れないと思います。


 でも、全体のスライドができることも


 将来のことを考えると大切で、


 それは三菱養和サッカークラブ巣鴨
Jrと、


 決勝大会には来られなかったけれど


 
FCパーシモンがよかったと思います。


 この大会が世界大会までつながっていることで、


 世界で勝つためにはどうすればいいか


 という向上心を生んで、


 チャレンジにつながっていると思います。


 目ざすところは国内、それから世界ということで、


 子どもたちの目標に天井を作っていけないので、


 この大会はいいですね」

 



そしてこの日来場した3人の特別ゲストは


決勝の後にこんなコメントを残してくれました。




 

初代S1ガールの小島瑠璃子さん



「本当にレベルが高くて


 プロの試合を見ているようでした。


 中澤佑二さんも福西崇史さんも


 本当に
Jリーグの試合を見ているようだと


 おっしゃっていたとおりで、


 展開が早かったと思います。


 私、来年も絶対来ます」

 



福西崇史さん



「決勝戦は、


 みんなの力、それまでに戦ってきた仲間たちの気持ちも


 入った戦いだったと思います。


 勝負に対する気持ちも出ていましたし、


 その中で戦術だとか、


 個人が表現しようとしていることまで出ていて、


 とてもいい試合でした」

 



中澤佑二さん



「いいですね、


 こういう環境があってのびのびプレーして。


 勝っても負けても


 子どもたちなりに考えることがあると思います。


 そこから中学に上がっていろんなことを経験して、


 高校に行き、プロになるか大学になるかわからないですが、


 そのときにやっていた気持ちを


 持ち続けてほしいですね。


 みんなプロになりたいと思っているのですが、


 それを持ち続けるのは難しいことなので。


 家庭環境だったり周りの環境だったり、


 自分だけではどうにもならないことが


 たくさんあると思うのですが、


 持ち続けたものだけがプロになれると思うので、


 プロを目指している子は


 今まで以上に夢中になって


 サッカーに取り組んでくれればと思います。


 プロにならなくていいと思っている子は、


 楽しくサッカーをしながら


 仲間を見つけてもらえればと思います」

 

 


優勝した横浜F・マリノスプライマリーの


次の舞台はイギリス・ロンドン。


日本の代表はサッカーの母国でも


きっと活躍してくれるでしょう。


そしてその場には、


今回大会に参加してくれたみんなの思いが、


リボンという形で同行します。


世界大会のスタジアムを見たとき、


そこにはみんなのサッカーに懸ける思いが


届けられているのです。