田辺聖子さんが亡くなった。星が一つずつ消えてゆくように、訃報に接する。
30代のころ、ひそかに小説なるものを書き始めたが、右も左もわからぬ私は、今思い出しても恥ずかしいような代物を書いていた。
子供のころから読むのは好きだったので、下の子がようやく幼稚園に入ると、自転車で図書館に行っては、いろんな本を借りて読むようになった。
そのころ、たまたま買った婦人公論(中央公論だったかも)に、田辺さんの「お目にかかれて満足です」が連載されていた。もう夢中になって読んだ。連載が終わるまで、雑誌は買い続けた。
そして、図書館でも田辺さんの作品を次々に借りて読んだ。
まず、背景が素敵だった。関西出身のわたしには懐かしい言葉、会話だけではなく地の文でも関西弁が現れる。ヒロインは年若く、自立していて、しっかりした女性、皆魅力的である。そして心惹かれたのは、ディテールの細やかさ。ああ、こんなふうに書くんだ。わたしには一つの標に思えた。
どの作品も、それぞれに魅力的だ。
何年か前、娘が「センチメータルジャーニー」を読んで面白いねと言っていた。次の世代が読んでも心の芯に、今ふうに言えば「刺さる」のだろう。
次々読んだ30から40代のころが懐かしい。読むのも書くのも、重くなってきたのを、歳のせいにせずに、もうひと頑張りしたくなっている。(合掌)