図書館で借りた本から、すごくいい匂いがする。
といっても、甘い匂い、花の匂いといったものではなく。
地方の旅館に行ったときの、香とも芳香剤ともつかないような、柔らかいくせに主張の強い、空間から匂ってくるような匂いだ。
時間をかけて、自分の生活圏から離れて出会うと特に違和感はないが、突然出会うとしばらくは「これはなんという匂いだろうか」と思いふけってしまう。が、けして不快ではない。
思えばこの匂いがする人間にあったことが無い。
モノが発しているからこそ、どこか平坦な無機質さがあるきがする。
その本を開くたびに、ふわっと匂いが広がるので、度に「これはなんという匂いだろうか」とやってしまう。
早く読まなければ、返却期限が来てしまう。