今日午後新車がやってくる。
カミさんのお気に入りのバイオレットの色をした車がやってくる。
ペーパードライバーの俺だからカミさんの運転しやすさで選んだ。
新車が来るということは、乗り馴れた車とおさらばするということでもある。
長年厄介になったトヨタのウィッシュとサヨナラする日。
昨日はカミさんと長男坊とでヒソヒソ語り合った。
「ゆうくん、泣いちゃうかもよ、また」
考えてみたら彼の生まれたのとほぼ同時期に買った車だった。
「同い年のお友達だと、思っているよ、ゆうくん」
最近次男坊をやたら赤ちゃん扱いするのがマイブームの長男坊が呟いた。
壊れた冷蔵庫を引き取りに来た冷蔵庫の後を追って泣いた彼のことだ。
同い年のお友達とのバイバイはかなりキツイはずと察する。
金子みすゞの詩で、
「お魚さんが、大漁の日は、
きっと海の向こうではお魚さんのお葬式なんだよ」
という素晴らしい詩があるが、まさにそれなんだよね。
100人儲けたら裏で100人泣いているんだ。
100人笑わせたら裏で100人泣いているんだ。
目の前の誕生を喜ぶということは、別れを悲しむ人もいるってこと。
大切なのは、喜んでばかりいることじゃなくて、悲しんでいる人のことも想像することだ。
大切なのは、悲しんでばかりいることじゃなくて、いつか自分も笑えると信じることだ。
「カフカは糾える縄のごとし」と言ったのはカラヤンだか金やんだかどちらかだと思うが、
悲しみと喜びの差こそが人としての幅であり、器の大きさなのだろう。
さて。
どうなるかな。
こりゃ次男坊、泣くわな。
次男坊が生後二ヶ月で発熱した時も運んでくれた車。
心配そうな当時2歳の長男坊には、悟らせないよう車内では「あめふりくまのこ」をかけっぱなしにしたっけ。
長野へもたくさん連れてってくれたよね。
13年。
家族の嬉しい時、悲しい時、寄り添ってくれた車。
前方ぶつけたのを直したのは俺だったんだよね。
サンドペーパーから始めた作業が実はとても面白くて、落語家になってなかったら自動車修理工になっていたのかもなって思わせてくれたよね。
何より宇多田ヒカルの新曲にタイアップしたFM東京の番組のコマーシャルにも、
出させてもらえたんだっけ。
十三年間、ありがとう。
君のおかげで素晴らしい時を過ごせました。
あ。
こりゃ、次男坊より、俺が泣きそうだ。
天下の大師匠 談志 の
無茶振りに耐えつづけた9年半で手に入れた、
”笑う”コミュニケーション術