ヤタベェは痩せていた。

痩せたというか、頬がこけていた。


「どうしたの、そんなにやつれて」

「うん…ちょっとね」


目が死んでるし、元気もない。



「どこか行きたい所ある?」

ヤタベェのそんな姿を見たら、
あそこに行きたい!なんて
無邪気に言えない。



「ヤタベェの家って近かったよね」

「うん、電車乗ってすぐよ」

「よかったら、おうちに連れてって」

「えっ…」

困惑するヤタベェ。


ちょっと唐突すぎたかな…

でも、家ならゆっくりできるでしょう。



「構わないけど、散らかってるよ」

「そんなのいいよ、行こ」


こうして、半ば強引にヤタベェの家に
お邪魔することになった。





駅から5分ほど歩いた所にある
4階建の綺麗なマンションへ。



ドアの前で鍵を開ける手を見て

高校の時

一人暮らしの彼の部屋に入る時も
こうやって手を見てたな、

なんて思う。



「どうぞ」

ドアが開き、ふわっと
柔軟剤の香りに包まれた。



白い壁、グリーンのカーテン、

薄いブラウンのフローリング、

キッチンにはお皿が重なり、

大きいベッドと大画面のテレビ、

お酒が並んだ棚、

壁に掛けられたスーツ、

床に散乱した仕事の書類、

テーブルの上には

前にヤタベェと交換した
小さいぬいぐるみが飾られてある。




「思ったより散らかってないよ」

「そう?」

「うん、もっと汚ないかと思った」

「ああ、寝るために帰ってる
ようなもんだからね」

「そうなの…」


やっぱり仕事がハードで
やつれちゃったのかな。




冷蔵庫からお茶を出してくれて、
ひと息つく。


「ワンルームだから狭くてごめんね」

「ううん!なんか居心地いい」

お世辞とかじゃなくて、
なんだか本当に落ち着くんだ。


「そう?よかった」

ヤタベェの笑顔にホッとする。




私のお腹がギュルルルと鳴ったので
お昼ご飯を食べることにした。


「私が作るよ?」

「ううん、僕が作るから
グレ子ちゃんはゆっくりしてて」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「そうしてそうして」


ヤタベェは手際よく
チャッチャとラーメンを作り、

私はその横で見学。



あっという間に完成して

「おお!さすが一人暮らし歴
長いだけあるねえ」

「そうよぉ、自炊生活だもの」

ヤタベェの自慢気な顔が
可愛く見えてしまう。



私がテーブルに運び
ヤタベェが缶ビールを出し

2人揃っていただきますをする。



「美味しい!」

「美味しいね!」

「このチャーシューもしかして手作り?」

「そうなの。冷凍しといたのよ」


主婦か。



「人が作ってくれるご飯だけでも
有り難いのに、こんな美味しくて幸せ」

「グレ子ちゃんが喜んでくれて
作った甲斐があったわ」


幸せだなあ。


これからヤタベェの彼女になる人が
羨ましいな…




ビールも進んで昼間からほろ酔いの私。

ヤタベェは3缶呑んだけど、
全然酔う気配もない。


「大昔ね」

「うん」

「アル中みたいになったことあるんだ」

「えっ、なんで?」

目を丸くして驚くヤタベェ。


「その頃は自分のダメ人間ぶりが嫌で
なにもかも忘れたくて、弱いくせに
毎日日本酒呑んじゃってね」

「そうだったの…」

「まあ、今でもダメ人間だけどね」

「そんなことないよ」


ヤタベェが私の頭をポンポンする。


正直、ポンポンされるのは嫌い。
バカにされてる気がするから。



でも、なんでだろう。


ヤタベェのポンポンは嬉しくて、
子供のように甘えたくなってしまう。



ちょっとだけ
ヤタベェに寄りかかってみた。

体が大きいからすごい安心感ある。



肩に頭をちょこんと乗せてみた。

ヤタベェは何も言わず
私の頭をよしよしと撫でてくれる。


「グレ子ちゃん、酔った?」

「うん…少しね」


頬が大きい手で包まれた。


「顔、熱いよ」


ヤタベェの左手は、私の頭。

右手は、私の左の頬。


ここで私が顔を横に向けて
目線を上げたら…


キスしてもおかしくない状況。



頬に触れる手に力が入った。


くいっと顔を上げられる。


ヤタベェと目が合った。


視線を逸らすことができない。



ヤタベェが私の反応を確かめるよう

躊躇しながら顔を近付けてくる。



ど、どうしよう



戸惑っている間に

少しずつ

少しずつ顔が近付いて……





「ヤタベェ、酒くさい」

「えっ」

「ビールくさっ!」

「えええマジかあ!!」


ゲラゲラと笑い合った。