ヤバい。

朝になっちゃった。


子供達にもハルにも連絡してない。


どうしよう…

さすがに怒られるよね。


「仕方ないよ、腹をくくろう」

マイムちゃんに言われ、覚悟を決める。




閉店時間の5時になると

お客さんは「また来るね!」と
次々と帰って行った。


私はシンタロさんの手伝いで
テーブルの食器を下げる。


「悪いね、グレ子ちゃん」

「いいよいいよ!」


人の役に立つのは嬉しい。


洗い物だって率先してやっちゃう。

ウンザリしながら仕方なくやってる
家での洗い物とは大違いだ。


「本当に助かったよ。いつもは
1人だから混むと大変でね」

私の横でお皿を拭くシンタロさん。

「バイト入れないの?」

「んー、人件費払う余裕ないんだよな」

「じゃあ私が手伝おうか?」

冗談で言ったのに

「えっ!マジで?それは助かる!」

本気にされてしまった。

いやいや、嘘です、ごめん

と言うタイミングもなく

「無償は悪いから店にある飲み物は
飲み放題でいいからね。食べ物も…」

話がどんどん進み、
今さらもう訂正できない雰囲気。


こ、困ったな…

でも冗談なんか言ってしまった
私が悪いんだよなあ。


「グレ子ちゃん、こういう仕事
けっこう好きでしょう?」

「えっ?ああ、前に居酒屋で
バイトしてたから慣れてるだけ」

「そうなんだ。それなら安心して
仕事任せられるよ!有り難いねえ」


正直言うと、さっきは楽しかった。

お客さんの注文を受けるのも、
お酒をテーブルに運ぶのも、
お客さんが喜んでくれたのも。

なによりも、
シンタロさんの役に立てたのも。


「じゃあ、土曜日は手伝いに来るね」

自分の言ったことくらい、
責任を取らなきゃいけない。

家族とハルが反対するだろうけど、
なんとか説得しよう。


だいたい、ハルは私に
『自分の世界を持てよ』なんて
偉そうなことを言ってたんだ。

「私は自分の世界を見つけました」
と言ったら反論なんかできないはず。



1時間前からずっとカウンターに伏せて
爆睡中のマイムちゃんとヤタベェに

そっとタオルケットをかけてあげる
シンタロさん。


「グレ子ちゃんが店に居てくれる
ようになったら、この人達も気軽に
遊びに来てくれるよ」


そうかな…

そしたら、みんなと会えるし嬉しいな。


「週に1回定期的に集まるなんて、
なんかの部活みたいだね」

「ははは!そうだな」




ーーこうして、

私は土曜日にシンタロさんの店で
ボランティアをすることになった。


『二重生活』


そう言っても過言ではないくらい、

私の残りの人生に
大きな影響を与えることになる。






怒られるなぁ…絶対怒られるなぁ…
さすがに無許可で朝帰りだもんなぁ…


そう思いながらビクビクで帰宅すると

「あ、不良母ちゃんが帰ってきたぞ」

「家出じゃなかったんだ」

「実家に帰らせていただきますかと思った」

子供達はニヤニヤと笑っていて
怒られることはなかった。


ハルは……


「お父さんも出かけてたよ」

「帰ってきたの夜中だったね」

「おもてなし子ちゃんの所かなー」


ああ、そうでしたか。

もしかして、私がいない方が
レッツエンジョイなんじゃないか?

「土曜日は家にいなくなるよ」
と言ったら、怒られるどころか
喜ばれるかもね。



「お父さんの誕生日プレゼントどうする?」

実希が切り出して

「おもてなし子ちゃんに祝って
もらうんじゃないのぉ?」

呆れ顔の咲希が言う。

「土曜だし友達んち泊まろっと」

光希がスマホを打ち始めた。

「んじゃ私は彼氏とオールでカラオケに」

「お姉ちゃんは彼氏いていいなあ〜。
おばあちゃんの家に泊まろうかな」

「お母さんは?」


私は…


「私も友達の店に行くよ」



せっかくの特別な日ですもの。

おもてなし子ちゃんとお誕生日デート、
きっと楽しいよ。

よかったね、ハル。




夜になって仕事から帰って来たハルは

私が朝帰りしたことなど
すっかり忘れてしまっているようで

「あー腰が痛い、痛い痛い」

ベッドに転がって悶絶するだけだった。


そんなに腰を痛めるなんて、
なにをしてきたんでしょうねえ?