休みの日。

ハルには「買い物に行く」と言い、
心療内科に向かった。


診察では、どこからどこまで
説明すればいいんだろう…



スライドショーのように

つらかった、悲しかった思い出が
頭に浮かんできて


一歩一歩、

足を踏み出すごとに
体がガタガタと震え出した。



そして

胃が痛くなるかもという恐怖で
冷や汗が滲み、呼吸が乱れる。




やっと病院にたどり着き
自動ドアが開いた瞬間、

その場にしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫ですか!?」

駆け寄ってきた受付の人に支えられて
待合室の長椅子に座る。


「はい、息を吸って…」

スウゥ……

「ゆっくり はいて…」

フウゥ……


受付の人にリードしてもらい、
なんとか落ち着いた。



こんな醜態を晒す自分が
恥ずかしくて恥ずかしくて
たまらなくて

肩をすぼめて待つ。





「伊藤さーん」


名前を呼ばれ、
額の汗をハンカチで拭って
診察室のドアを開けた。



「こんにちは。もう大丈夫かしら?」


先生はオネエ口調のおじさまで

ふくよかな姿と優しそうな笑顔と
柔らかな物腰に

少しだけ緊張が和らいだ。



「はい、すみません…」

「あらあら、謝らなくたっていいのよ」

にっこりと微笑む先生。



「さて、どうなさったのかしら。
お話しして下さる?」

「えっと、モ、モラ……」

「モラ?」

「………」


言葉に詰まって
黙りこくってしまった。


『モラハラかもしれない主人に
苦しめられています』

なんて言えない。



「言いたくなかったら、無理して
言わなくてもいいのよ」

先生のそんな優しい言葉に

「あ、えっと、仕事のストレスで
なんか体がおかしいんです…」

嘘をついてしまった。



「あらまぁ、それは大変ね。
簡単なテストから始めましょうね」

と、紙を机に出す先生。


そこには


□ 眠れない
□ 食欲がない
□ 音がうるさい
□ 胃がもたれる、痛む
□ 息苦しい
□ 気が重い
□ 体がだるい
□ 仕事に集中できない
□ 楽しいと感じることがない
□ 自分は必要とされていない


その他にも

ネットのパニック障害テストで出たような
チェック項目がズラリと並んでいた。


ほとんどの質問に
チェックをつける。




「あら…おつらかったでしょうね」


先生のこの一言を聞いて、

ぶわっと涙が溢れた。





抗不安薬、抗うつ剤、漢方、
睡眠導入剤を処方され

重い足取りで家路につく。



結局、パニック障害と
ハッキリ診断されなかったのが
モヤモヤするけど

「薬を飲んで様子を見ましょう」

と言われたので、そうするしかない。






家に戻ると

ハルはパソコンの前に座り
仕事ではなく、ゲームをしていた。



「腹減った!昼飯なに?」

子供のように無邪気なハル。




この人は

私の異変に気付きもしない。




この人は

私を幸せにする気などない。


一緒に幸せになろうなんて気もない。




私を幸せにする気などない。

「なんで私と結婚したの?」


目の前でチャーハンを頬張る
ハルに問いかけた。

 
「あなたに結婚してって言われたから」



そうだよね。

それだけのことだよね。




味覚がマヒしてしまった私は

味がしないチャーハンを
スプーン一杯、口に詰め込んで


その後

貰ってきた薬を水で流し込む。