ふわふわした足取りで出勤する。


自分の体じゃないような感覚は
ずっと続いていて

頭の中にかかっている霧は
日を追うごとに濃くなっていた。



「伊藤ちゃん…ちゃんと食べてる?」

社長が心配そうに話しかけてくる。

「食べてますよ」

本当は、胃が食べ物を受け付けない。


「痩せたでしょ?」

「いやいや、痩せてないですよ」

本当は、鎖骨が窪み
あばら骨の形が薄っすらわかる
体になってしまっていた。




湯呑みを洗った後に
ふと給湯室の鏡を見る。



艶がないパサパサの髪

くすんだ肌

真っ黒な目の下のくま

こけた頬

死んだ魚の目

下がった口角

カサカサの唇



誰?このおばさん。



…あ、私か。


30半ばなのに40代にしか見えない。




退社する時間が近付くと
いつものように胃が痛み出し

会社の近くの公園のベンチで
気絶したように30分眠ってから

ふわふわと家に帰る。




「ただいま…」

「お母さんおかえりー!」

「おなかすいたー!」


ああ、また部屋が散らかっている。


「片付けなさいって言ったでしょ!」

「……ごめんなさい」




家に戻れば戻ったで


家政婦

飯炊きババア

お掃除おばちゃん


それ以外に存在価値はない。




「ハル、お風呂どうぞ」

「…………」



愛情を注がれることもなく

ましてやセックスなどするはずもなく

心も体もとっくに干からびた。






生きる意味もない。




私はこのまま


女性として

人間として


なんの意味もないまま


死ぬ運命の日まで無駄に生きていく。