奥様と話してから

『普通じゃないわよ』

の言葉が頭から離れない。




そっか。

うち普通じゃなかったのか…



でも、わからない。


普通とは?


比較対象を
どこにすればいいんだ?


うちの親じゃないことは確か。



周りに結婚している友達はいない。




『普通じゃないわよ』


私が普通だと思っていた事は
普通じゃなかったの?


他人から見たら異常な事だったの?


あれもこれも狂気の沙汰だったの?




『普通じゃないわよ』


普通ってなんだ。


家族の幸せってなんだ。

一般の家庭ってどうなってんだ。



夫婦の幸せってなんだ。

一般の夫婦ってどうなってんだ。



幸せな結婚ってなんだ。

普通の結婚生活ってどうなってんだ。



『普通じゃないわよ』


普通って本当になんなんだ。


みんなどうやって生きてるんだ。




誰か…


誰か教えてくれ………






何日も何日も
ろくに眠れない日を繰り返した。


どう考えても
結論なんか出やしない。





ダンボールに囲まれた
狭い狭い 私の居場所。


これも、どう考えたって
普通じゃないよね。





本当は…

ハルに救って欲しい。



「ごめんね」って

「悪かった」って

「やり直そう」って

「部屋に戻っておいで」って

「心配するな」って

「守ってあげるから」って

「一緒に幸せになろう」って



手を差し伸べて
ここから救い出して欲しい。



そしたら、
ハルへの恐怖心も一気に溶けるんだ。

何事もなかったかのように。




笑って暮らしたい


幸せに生きたい




ハルと、子供達と……






コンコン


朝早く、
誰かがダンボールをノックした。


ハル!?


期待しながらダンボールを
ズルズルとずらして見ると


「あれ?」

咲希が立っていた。



「どうしたの?こんな時間に」

「お母さん、いつまでここにいるの?」


深刻な顔をしている咲希を
なんとか安心させたくて


「お母さん、なんだかここが
楽しくなってきちゃったんだ!」


えへへと笑ってみせた。



咲希の表情は変わらない。



うーん、手強い。

やっぱり実希や光希のように
騙されてはくれないなあ…

もう中学生だもんなあ…


なんて、しみじみと思っていたら

咲希の顔が一段と険しくなった。



「お父さんが言ってたよ」


「え、なんてなんて?」


ドキドキする。



「『あの人頭おかしくなったの?』って」









ガラガラガラガラ……




まで積み上げてきた年月が



過ごしてきた月日が



音を立てて





崩れていく気がした。