ピンポーン
チャイムが鳴る。
「伊藤さーん、宅配便です」
「はい…」
夕食作りの手を止めて玄関に向かう。
私がどんなに忙しくしていても、
ハルは絶対出てくれない。
ドアを開けると
どデカいダンボールが見えた。
「お荷物ここでいいですか?」
「は、はい…」
なんだろうこれは?
「おっ!来た来た!」
漫画を読んでいたハルが
バタバタと駆けつけてきた。
「よっ…!」
ものすごく大きな荷物が
次々とリビングに運ばれる。
「お父さん、なにこれ!」
子供達も興味津々。
ハルがニコニコと上機嫌で
ダンボールをバリバリと開ける。
中から出てきたのは…
「あっ!パソコンだ!」
覗き込んだ咲希が声を上げた。
パソコン?
「わあー!」
実希も光希も目を輝かせている。
パソコン??
嫌な思い出が頭をよぎった。
昔、引っかかりそうだった
内職の詐欺電話。
まさか、ね…
リビングの一角に
パソコンデスクと椅子が設置され
ドドーン!と
ブラウン管テレビみたいな大きさの
パソコンが置かれた。
「どうだ!」
ハルがドヤ顔をすると
「すごいすごい!」
子供達がパチパチと拍手した。
パソコンねえ…
また新しいオモチャを手に入れたのか。
楽しそうでいいね。
すごい勢いで夕食を食べ
さっそく設定に取り掛かるハル。
「えーと、これを…して…」
ぶつぶつ独り言を言うハルの側で
私は散らかったダンボールや
梱包材を、黙々と片付ける。
どうせ、このゴミには
誰も手をつけないだろうから。
ついでに
家庭内別居の仕切りであった
ダンボールも片付けた。
どうせ、これからパソコンの前から
動かないんだろう。
この人が同じ部屋にいたら
私の唯一の居場所がなくなる。
夫婦部屋に戻るのも嫌だけど…
思惑どおり
夜中になってもパソコンの前から
動かないハルを素通りして
夫婦部屋に行こうとすると
「俺…IT関係に友達がい…
これ…仕事を手伝…にしたんだ」
訊いてもないのに説明をし出した。
相変わらずハルの声は
聞こえづらい。
「あっそう」
とりあえず、
詐欺に引っかかってはなさそうだ。
その仕事でいくら貰えるのか知らんが
どうせ、私にくれる生活費は
変わらないだろう。
「いやー、パソ…も高いよね。
こ…で25万…ってさ」
25万…!
どこにそんな大金が…
頭金10万しかくれなかったくせに…
充分な生活費もくれないくせに…
「ふーん」
もうどうでもいい。
「これWendowsって…だけど…」
興味ない。
ハルの話を無視して
夫婦部屋に入って床に布団を敷く。
ベッドはあの人の臭いがきつすぎて
眠れない。
あの人の臭いに囲まれると
檻の中に閉じ込められているような
感覚に陥る。
布団に潜り、
体をギュッと丸めた。
ハルは一体
いつになったら
離婚してくれるんだろうか。
離婚したら
別々に生活するっていうのに
なんでパソコンなんか。
あの人が出て行かないのなら
私が出て行くか…
消えるのみ。
携帯を取り出して
いつものように
ジ サ ツ と検索した。
いつでも終わらせることが
できるんだと、
自分の心を慰めて眠りにつく。