謎の高熱を出した。
39.7℃から下がらない。
2日間まるまる寝込む。
初日はさすがにハルも
水分や食べ物などの世話をしてくれたが
2日も経てば
「俺に移さないでくれ」と
夫婦部屋を追い出され
リビングのソファーに寝ていたら
「子供に移ったらどーすんだ」と言われ
ついには
「もう実家に帰れよ」と言われ
仕方なく親に電話をして
迎えに来てもらった。
実家のふかふかの布団に
ゴロンと横になると
なんだか赤ちゃんの頃に
戻ったような気がした。
「ハル君はなにをしてるんだ!」
父親が怒る。
「まったくアイツは正月にも顔を見せないし
だいたい、俺は結婚に反対だったんだ!」
「まあまあ…今はやめましょう、ね」
母親がなだめる。
「ハルは悪くない、ハルは…」
そう言い返すのが精一杯だった。
「病院に行こう」
何度も両親に言われたが
「嫌だ、行かない」
言い張って布団に潜った。
このまま死んでも良かった
…が、
徐々に熱は下がり、
3日後にはすっかり治ってしまった。
手のひらの皮がベロベロと
剥がれ落ちるのが気持ち悪い。
マンションに戻り、
考えていたことを実行する。
リビングのソファーの後ろに
ドラックストアから貰ってきた
大きいダンボールを立て掛け、
仕切りを作り、
夫婦部屋から必要な小物を移動した。
ここが私の部屋。
この狭いスペースで
これから生活する。
家庭内別居。
「なにこれ?」
「お母さん、どうしたの?」
学校から帰るなり
不思議そうに訊ねてくる2人に
「ここはね、お母さんの秘密基地だよ!」
そう言ってニッコリ笑うと
「わあ、おもしろいね!」
中に入ってキャッキャと遊ぶ
実希と光希。
咲希は
遠くからじっと見ている。
ソファーの下に
誰にも気付かれないよう
こっそり果物ナイフを隠した。
刃を私の方に向けて。
特に意味はない。
なんとなく安心するから。
「…千円…窓…飛び降…んと迷惑……」
ハルがなにか話しているけど
なぜかよく聞こえない。
子供達の声は問題ない。
ハルの声だけが、聞こえにくい。
ハルが怖い。
怖くて見ることもできない。
ハルが近くに来ると
体が固まり
震えが止まらなくなり
奥歯がガチガチと音を出す。
テレビも見ない。
お笑い番組を見ても笑えない。
音楽も聴かない。
音がうるさい。
仕事を休むわけにはいかなくて
惰性で体を動かし
いつもの時間に出社する。
足がふわふわして
地面に着いている感じがしない。
自分が歩いているような
気がしない。
自分の体を自分で動かしているような
気がしない。
赤信号で立ち止まると
「あれ?なんでこんな所にいるんだ?」
疑問に思う。
仕事は惰性でなんとかできる。
スーパーに買い物に行くと
いろんな商品が目に飛び込んできて
頭がクラクラする。
試食品コーナーでは
ホットプレートで焼く匂いに
吐き気がしてトイレに駆け込む。
食べることが苦痛。
胃に物を入れたくない。
ご飯も作りたくない。
できれば食べ物を見たくない。
食べたくもない料理をするのは
拷問にしか思えない。
胃は相変わらず
なにかのきっかけで
ギリギリと痛み出す。
あまりの痛みに
呼吸がどんどん荒くなって
目の前の景色がグラグラ歪む。
苦しくて うずくまる。
なんかの病気かもしれない。
このまま死ぬんじゃないかと思う。
別にいい。
そうなったらそうなったで
私の運命だから仕方ない。
むしろ
そ う な れ ば 楽 な の に