「ハッピバースデーお母さん!」
「ありがとう!」
フーーーッ!
パチパチパチパチ
子供達が作ってくれたケーキの
ろうそくを吹き消した。
「ごめんね、ケーキ失敗しちゃった」
咲希がペロッと舌を出す。
生クリームがうまく
泡立たなかったらしく
上からトロッとかけてあって、
傾いた苺が雪崩のように
ゆっくりと流れ落ちていく。
「えへへ」
実希と光希が気まずそうに
頭をポリポリと掻いた。
ひとくち食べて
「うん!美味しいよ!」
と言うと、子供達の表情が
パアッと明るくなった。
味も見かけも ともかく、
こうして
祝ってくれる気持ちが嬉しい。
それにしても…
毎日バタバタと過ごしているうちに、
30歳を越えちゃってたよ。
ここまで、
あっという間だったな…
「おいしい?」
「うん、美味しいよ、うん」
「ああ、よかった!」
優しい子供達3人に囲まれて
私は幸せだ。
「ただいまー」
「あっ、お父さんだ!」
「おかえりなさーい」
帰ってきた優しくない大きい子供が
「はい」
私に紙袋を突き出す。
なんだろ?
ゴソゴソ中身を開けると
「あっ、これは…!」
折りたたみの携帯が入っていた。
「えっ!あ、ありがとう!」
「どういたしまして」
ハルがプレゼントをくれるという、
あまりの珍しさに驚きを隠せない。
毎年、コンビニスイーツを
買ってきてくれるだけだったから。
優しくない大きい子供とか
言ってごめんね、ハル。
「うわあ!なんじゃこりゃあああ」
「ケーキだよ、ケーキ!」
「お父さんも食べて」
「やだ!食べない!」
「出たあ、ワガママ父さん!」
「ワガママじゃない!こんなん食えるか!」
「なんだと!?口に入れちゃえー!」
「うわぁー、やめろって!」
「はははは!!」
大きい子供っていうのは
あながち間違いじゃないか。
部屋に戻ってドレッサーの椅子に座り、
もらった携帯を眺める。
私からは一言も『欲しい』と
言ってないんだけど…まあいいか。
毎月の携帯料金が気になるけど…
払えなきゃ買わないだろうし、まあいいか。
バタン
ハルが入ってきた。
何も言わずベッドにゴロンと転がり
自分の携帯のメールをチェックをする。
子供達の前では元気にしているけど
実は
このマンションに引っ越してきてから、
ハルはずっと機嫌が悪い。
そして、体調も良くはなさそうだ。
理由は言わないけど
たぶん、私と同じ部屋なのが
気に入らないんだと思う。
自分の部屋が欲しいって望んだのに
私がいたら、そりゃ邪魔くさいよね。
でもさ、4LDKで
咲希の部屋、実希の部屋、光希の部屋、
余ってるのは一室なんだから、
夫婦の部屋にするしかないじゃん。
「ハル」
「ん?」
「ありがとうね、携帯」
「別に。あいつらと相談して
携帯にしようって決めただけだし」
そうだったんだ。
きっと子供達の方が真剣に考えて
くれたんだろう。
ゴロン
うつ伏せになるハルを見て
「あれっ?」
ちょっと待って、なんだろう。
「ねえ、頭どうしたの?」
「頭?」
近付いてよく見ると
500円玉くらいの丸いツルツルの頭皮が…
「え、これは…円形脱毛症…?」
「なんだって!?」
ガバッと飛び起きたハルは
ドレッサーの前で合わせ鏡をして
後頭部を見る。
「うわあああああっ!!」
何度も見ては
「ああああああっ!!」
絶叫するハル。
その横で動揺するだけの私。
チュン チュン…
鳥の声
窓から差し込む光
朝か……
結局、一睡もできなかった。
もぞもぞとソファーから起き上がる。
ハルと一緒の部屋にいるのは
いたたまれなくて、
私は一晩中リビングで過ごした。
夫婦部屋のドアに目をやる。
ハルは眠れただろうか…
入る勇気がない。
円形脱毛症の原因は
世間ではストレスと言われている。
そのストレスの原因は
きっと、私だ。
『自分の部屋が欲しい』
私がハルの希望を無視したからって
いうのはわかる。
それだけじゃない。
不安定な精神が治らず
薬から卒業できないのも、
楽しそうに笑う顔を
全然見なくなったのも、
私のせいかもしれない。
『貴方は結婚すると不幸になる』
前に聞いた占い師の言葉が
呪いのように、また脳内で蘇る。
ハルは幸せじゃないんだろう。
私のせいだ。
ギリギリギリギリギリギリギリギリ
ああ、まただ
胃が…
胃が痛い………
ハァ ハァ ハァ
なんか、呼吸も……
胸に手を当てて
床に膝をつく。