結婚する前から住んでいる
このボロアパートは

築40年、四畳半と六畳の2DK。




「お母さん、あのね、お母さん」

「ねえねえ、今日ね、学校でね」

「コラ、2人とも!
お母さんは疲れてるんだから!!」

「わあー咲希が怒ったー!」

「咲希って言うな!お姉ちゃんでしょ!」

「怖いよぉぉぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁぁん!!」

「おまえ達、静かにしなさい!」

「わあーお父さんまで怒ったー!」

「怖いよぉぉぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁぁん!!」

「咲希は悪くないのに!わぁぁん!」


毎日毎日

ドタバタドタバタと賑やかで

狭い部屋にギュウギュウ詰め。




「自分の部屋が欲しい」

いつか子供達の誰かが
そう言い出すだろうと思っていたら、

まさかのハルからだった。


うーん…



家族5人で暮らすには
もうとっくに限界がきているし、

子供達もこれから
中学生になり、高校生になる。



本格的に考えなきゃいけない時が、
ついに来たということだ。




「引っ越そうか、ハル」

「うん、あなたがいいなら」

「ハルは一軒家とマンション、
どっちに住みたい?」

「マンション!」


しまった…


ハルが即答するということは、

そうしなきゃ気にくわない
ということなんだ。



さて、どうやって説得しようか。



「あのね、マンションだと
子供達がバタバタ暴れるから
下の人がうるさいと思うの」

「俺は子供の頃マンションに住んでる
友達の家に遊びに行ってから、
ずっとマンション暮らしに憧れてたんだ」


ああ、こりゃ無理パターンだ。



これ以上話しても
頑として譲らないのは予想できる。

不毛な時間を使いたくない。



「じゃあ、マンションにしよう」

仕方なく折れた。






早速、翌日から動き始める私。


「えーと、今の家から近い所は…」

不動産屋をいくつか回った。



ハルとの間の決め事はいつも

私に託され、私が動く。


どうせハルは
めんどくさがって やらないから。



ハルの希望通りに
私が整えたお膳立てに

ハルは乗るだけなのだ。



まあいいよ。

私、せっかちだしね。






「伊藤ちゃん!なに見てんの」

ぺろん

「住宅情報誌です。引っ越そうかと思って」

ぺろん ぺろん

「そうなのか…ん?ちょっと待ってて」


どこかに電話して
誰かと話し出した社長。


「伊藤ちゃん!ちょっとちょっと」

「はい?」

ぺろん

「FAXが何枚か来るから見てて」

「あ、はい」


しばらくして流れてきたFAXには
マンションの間取り図が書かれてあった。



「社長、これは…?」

「俺の知り合いの不動産屋だよ。
情報もらうから俺に任せとけ!」

拳でドーンと胸を打つ。


えっ…!


「た、助かります!」


やった!!

これで不動産屋巡りしなくて済む!


「ありがとうございます!」

「いい物件あるといいなあ!」
 
「はい!」

ぺろん







幸いなことに

うちから近い場所のマンションに
空きが出た。


築30年、4LDK。
日当たり良好、テラス付き。

子供達の部屋は4.5畳で
小さいけど我慢してもらおう。


リフォーム前の物件なので
汚い所はあるけど、

その分安くなりそうとの事。



「よかったなあ、伊藤ちゃん」

「はい!子供達が転校しなくていいし、
本当に良かった。ありがとうございます」

「引っ越しも近いから楽だろう。
あ、うちの職人に運んでもらいなさい」

「はい!助かります!」

ぺろん ぺろん ぺろん




「ただいまー!聞いて聞いて!」

「落ち着け。なに?」

「マンション見つかりましたー!」

「ああ、そうなんだ」


あれっ…

なんかハルのテンション、低い。


「嬉しくないの?」

「いやー、そしたら決めることが多くなるし
いろいろ大変だもんなあ、これから」


ハルは大変じゃないじゃん。

動いてるのは私なんだから。



「このマンションなんだけど…」

資料を渡すと一通り目を通して

「いいんじゃない?」

バサッと返された。


「それでね、近いうちに銀行に行って
住宅ローンを組むんだけど…」

「あ、ちょっと俺コンビニ行くわ」

急に立ち上がって、
無造作にサンダルを履くと

バタン!

出て行ってしまった。



???


なんで今、
このタイミングでコンビニ?