「これ頼むね、伊藤ちゃん」

ぺろん

「はい、わかりました社長」

ぺろん  ぺろん

くっそ、このエロオヤジめ!





ーーー今から1年前。


おじさんに背中をバンバン押されて

23万の求人の会社の部屋に
叩き込まれた私。



くっさ!

煙草くっさ!


「ゲッホ!オエッ!」

煙で部屋がよく見えないし!



「社長〜!事務員さん来たよ!」

おじさんが大声で言う。


「いや、ちょっ、まだ…」


「なんだって?本当か!!」

奥から さらに大きな声が聞こえた。


バァーン!

威勢良くドアを開けて出てきたのは


ビール腹の、頭がバーコードの、
四角い黒縁メガネの中年。



私の顔と体を
上から下まで舐めるように

じーーーーーっと見て、

「はい採用!!」



いやいやいやいや

ちょちょちょちょちょちょ



「お姉ちゃんなら大丈夫だ!」

おじさんがカカカ!と笑う。


な、なにが大丈夫なんだ!?


「じゃあ、来月からね!」

ビールバーコードメガネも

ははは!と笑って部屋に戻っていく。




「………あの」

「なんだい?お姉ちゃん」

「死ぬほど困るんですけど」

おじさんに文句を言うと

「ああ!居酒屋の大将には俺から
お姉ちゃんが辞めること言うからさ!
だいじょ〜ぶだぁ〜!ははは!」

いや違くて。






「できました、社長」

ぺろん


結局、私はここで働き始めて


「おっ、さすが伊藤ちゃん」

ぺろん  ぺろん


こうして社長にお尻を触られる。





「おっ、今日も耐えてるね!」

現場から帰って来たおじさん…
いや、井上さんがニヤッと笑う。



他の職人さん達には

「伊藤ちゃんのおかげで助かってるんだよ」

「まったくだ、伊藤ちゃんのおかげだ」

「伊藤ちゃんは俺らの天使だ!
なあ、みんな!」

「そうだそうだ!」


次々と持ち上げられて

なんだかなあ…

と、渋々気持ちを抑える。




「伊藤ちゃん、悪いねえ」

給湯室で湯呑みを洗う私に
井上さんが話しかけてきた。


「ほんとですよ、まったく」

唇を尖らせて答える私。


「社長があんなもんで、今までの
事務員さんはすぐ辞めていくんだ」

まあ、そうでしょうね。


「伊藤ちゃんなら動じないと思ってな。
よく働いてくれるし、感謝しとるよ」


ああ、そうか。


『お姉ちゃんなら大丈夫だ』って
言ってたのは、こんな事情だったのか。








「はい、今月のお給料。
伊藤ちゃんのおかげで今年も会社が
潰れませんでした!ありがとさん」

社長がバーコード頭を深々と下げて
明細を私に渡す。


「ちょ、頭をあげて下さい、社長!」

私のおかげなんかじゃないってば。



確かに、

事務やら経理やらお茶汲みやら
買い物やら作業服の洗濯やら掃除やら
職人さん達の世間話の相手やら

毎日毎日忙しい。


でも、会社が成り立ってるのは

社長はじめ、職人さん達が
全員頑張っているからだ。


私はただのサポート役にすぎない。




「伊藤ちゃん、これプレゼント」

「えっ?」

「ここに来て1年経ったから、お祝い」


職人さんから大きな花束を渡された。

パチパチと拍手が起こる。


「えっと、あの…」

とまどう私に社長が

「なんだよ!花束なんか送ったら
辞めるみたいじゃないか、なあ!」

ぺろん

「ちょっと社長!!」




通常業務に
オプションとして尻を触られ

その分プラスでこの高いお給料を
いただいていると思えば、

まあ…割り切れなくもない。


こんなセクハラ、
世の中的には許されないことだ

とは思うけども。




でもさ、

23万の内訳に『おさわり代』って
ちゃんと明記してほしいわ、マジで。