受話器を持ち、呆然とする私。

ハルが…?


布団で横になっている
ハルの後頭部を見つめた。


ハルが職場で…パワハラ?





「いつも申し訳ありません、
本日もお休みさせて下さい」


朝イチで電話して
またまたペコペコと頭を下げた。


いつもは「わかりました」と言う
事務員さんが

「あのー、大変言いづらいのですが」

と、話してくれた。



どうやらハルが後輩の男の子に
パワハラをしているらしい。


『そんなんなら辞めちまえ』

『やる気あんの?』

『もう来なくていいよ』

など、数々の暴言を吐いていると。



「いやね…私達も正直、後輩の彼には
ほとほと手を焼いているんですよ」

事務員さんが話を付け足す。



「仕事には平気で遅刻する、煙草を
吸ってお茶を飲んで勝手に休憩する、
お客様には態度が悪くクレームが来る…」

へえ、そんな子がいるんだ。



「私達も彼には物申したい。でも、
どうしても頭ごなしに言えないんですよ」

「そうですよねえ…」

そこまで酷いなら、言っても
いいんじゃないかと思うけどな。



「伊藤さんはズバズバ言うんですよ、
周りが引くほどの暴言で」

まあ、ハルらしいと言えばハルらしい。



「それでね、昨日は彼がついに
『僕はパワハラを受けている!』と
大騒ぎして、会社の屋上から飛び降り
ようとして…」

「ええっ!!」


ふっ、と事務員さんの小さい
笑い声が聞こえる。


「いやいや、彼のパフォーマンスです。
本当に飛び降りる気なんてないですよ」

そ、そうか、よかった…



「それでも伊藤さんの発言は威圧的
ですから、そこは問題なんですね。
パワハラと言えばパワハラです」

「はい………」



さらに深くペコペコと頭を下げて
電話を切った。




ハル…


ものすごく機嫌が悪かったのは
このせいかもしれないね…



いや、それだけじゃない。

ピン!ときた。


もしかしたら

ここの所、ハルが悩まされていた
原因不明の症状が

明らかになるかもしれない。



「ハル、まだ下痢は続いてる?」

「うん。夜中もお腹が痛くて起きて
ずっとトイレに立てこもってた」

「心臓は痛い?息苦しい?動悸は?」

「相変わらず」


確信した。


「ハル、病院に行ってきな」

「なんで?散々行ったじゃん!
心臓は悪化してないし内臓はどこも
悪くないって病院たらい回しにされて…」

「ううん、行かなきゃいけない所は」

「?」

「心療内科」







光希はとても嬉しそうに

「お父さん!お父さん!」

ハルの後追いをする。


「よーし光希、お馬さんだ!」

「わーい!お父さんパッカパッカ」

「重くなったなあ、光希は」




ハルが一週間休暇を取ったので

光希は保育園をお休みして
一日中、ハルと遊んでいる。



事務員さんと話した時、

「とりあえず一週間ほど
お休みされてはいかがですか」

と言われて、私は

「申し訳ありませんが、そうします」

と返事をしたのだ。



「お父さん、飛行機やって」

「よーし!じゃあ足に乗れ!」

「ブーンブーン!あははは」

「光希、そんなに暴れるなって!」



病院から貰ってきた薬が効いているらしく
笑顔が戻ってきたハルを見ると

心療内科で診てもらって
よかったな…

つくづく思う。


心の病気なんだから、普通の内科に
行ってもわかんないはずだよ。


もっとも、テレビで
『心療内科特集』を
たまたま見た

私のおかげでもある。





「診断結果は?」

何回か問いかけてはみたが

「うーん、いろいろ」

誤魔化して教えてはくれない。


言いたくないのかな…

だったら、もう二度と訊くまい。


ただひとつ、
気になっていることはある。


ハルの体調不良の原因が
単なる過労や後輩の件だけではなく、


この結婚生活が

そもそも ハルにとって
ストレスなのではないか?



じゃなければ

『結婚すると不幸になる』

どっかの占い師の話なんて

このタイミングで言い出したり
しないだろう。



…まあ、そんなの訊けないけどさ。



ずっとモヤモヤしたまま、
私はこれからも生きていくんだろうな

きっとね。