赤ちゃんを抱え、荷物を持ち、
フーフー言いながら
鍵を開けて部屋に入った私は
驚愕の光景に目を疑う。
ベビーベッドがない!?
驚いて部屋を見渡すと
壁にダンボールが立て掛けてあった。
買ってきて、そのままの状態。
なんで…
退院するまでに組み立ててくれるって
言ってたじゃん…
仕方なく赤ちゃんを床に寝かせ
組み立てようとするが、
ほぎゃー
慣れない環境のせいか、
赤ちゃんは なかなか寝てくれない。
おっぱいをあげて、
トントンと背中を叩いてゲップをさせ、
おむつも汚れてないか確認し、
そっと床に下ろすと
ほぎゃー
また泣いてしまう。
「大丈夫だよ。ここはあなたの
おうちですよ、よしよし」
抱っこして、体を左右に振り、
赤ちゃんをあやす。
これを何度繰り返したか。
当然ベッドなんて作れない。
お昼ご飯も食べれず、
泣き声と襲ってくる眠気と
戦っていると
「ただいまっ!」
ハルが帰ってきた。
「おかえ…」
「いたいた!」
挨拶も途中なのに
バタバタと部屋に向かうハル。
私がやっと寝かしつけた
赤ちゃんを抱き上げて
「帰ってきまちたよ〜」
赤ちゃん言葉で喋りかける。
「ハル、なんでベッド作ってないの?」
怒り気味に言うと
「ああごめん、忙しくて」
この適当に謝ってる感…
「今から作るから、はいっ」
抱っこをバトンタッチされる。
元々 器用なハルはベッドを
サササッと作り上げた。
そんな簡単に作れるなら
仕事が忙しくてもできたでしょうに…
なんて言えない。
「ねんねでしゅよ〜、ねんね ねんね」
赤ちゃんを上手にあやす
ハルの様子を見ていると、
とても心強い。
やっぱり赤ちゃんと関わりのなかった
私とは全然違う。
「さすが妹を育てたお兄ちゃんだね」
「ああ、俺この間まで赤ちゃんいたし」
?
??
赤ちゃんいたし???
「どういうこと?」
「ん?前の女との子供だけど」
えっ…?
えええええ???
「いや、あの、ちょっと…」
当たり前だが動揺する私。
前の女って
ルビーのペンダントの女だよね?
ハルと同棲してた…
「あいつが子供欲しい、結婚しなくて
いいって言うからさ。あ、認知はしたよ?」
頭がクラクラする。
「でも生まれたら急に『父親なんだから
責任取って結婚しろ』とか言い出してさ」
だから別れたのか……
「まあ、昔の話だから」
全く気にもしていない様子。
まあ、そうだけど…
昔の話だし、
ハルと元カノの間にあった出来事で
私には関係ないし、
赤ちゃんにも関係…な……
くないじゃん。
その子、立派に
ハルの血を引いてるじゃん。
「おっ、熟睡しました」
ハルがそーっとベッドに下ろすと
赤ちゃんは起きることもなく、
スヤスヤと眠っている。
よく起きないなあ?
私だとすぐ ほぎゃー なのに。
「さて、飯にするか。実家寄って
ご飯作ってもらったんだ」
ハルのバックから出てきたタッパーには
小魚のマリネが入っていた。
魚…
「母ちゃんがね、カルシウム取りなさい
って言ってたよ」
私、魚は苦手なんだけど。
ハルは知ってるはずだけどな…
マリネの酸っぱさと少しの生臭さに
悶絶しながら、
むりやり飲み込んだ。
そうだ。
そうだよな。
さっきの元カノの赤ちゃんの話も、
無理矢理
心に飲み込むしかない。
