「あいつのこと、どう思う?」
デザートのパンケーキを
もしゃもしゃ食べながら西野が言う。
よく食べるなあ。
だからそんな巨体になるんだろうな。
「どうって…名前も知らないし」
そうだよ。
コンビニのお客さん、
身長180㎝くらい、
金髪、細眉、
セブソスター、
ヘビースモーカー、
美形、
無口、
今トイレに行ってる。
それくらいしか知らない。
「ああ、名前は伊藤。伊藤ヨシハル」
へー、伊藤ヨシハルってのか。
「あっそう」
気の無い返事をする私を
ムッとした顔で睨みつける西野。
「おまえさー、ちったあ興味持てよ」
知りまへんがな。
「今 彼氏とかいんの?」
「いない」
むしろいらない。
一人を満喫してるのだ。
「丁度いーじゃん、あいつさ」
なぜかズイッと顔を寄せてくる西野。
思わず仰け反る私。
「猿田のこと気に入ってんだってさ」
フンっ!!
鼻水が飛びそうになった。
「なんだよ、その反応」
「いやいや…」
おしぼりで鼻水を拭きながら
真顔で普通に答える。
「急にそんなの驚くじゃん」
西野は呆れた顔で
「おまえ、変な女だな」
と言い、一気にお冷やを飲み干した。
トイレから戻って来た
セブソスター改め、
伊藤ヨシハルさんが口を開く。
「眠い。帰ろうぜ」
眉間に皺を寄せたその顔を見て、
私のことを気に入ってるなんて
絶対、西野の嘘だと思った。
本当に気に入ってるなら、
どんなに眠くても『帰ろうぜ』なんて
言わないよね…
軽くショックだけど、まあいいや。
「んっだよー」
ぶつぶつ言いながらレジに向かう西野に
「ご馳走様♡」
満面の笑みでお礼を言うと、
「今日セッティングした意味ねえ!」
と怒られた。
なんのこっちゃ。
「おまえが飯食いたかっただけだろ」
伊藤ヨシハルさんの不意打ちに
思わず爆笑してしまう私。
「そうだよね!」
振り返ると
伊藤ヨシハルさんは
楽しそうに笑っていた。
初めて、ちゃんと笑顔を見た。
心臓が
ちょっとだけトクンとする。
「あっ、ハル!おまえは金払えよ!」
「西野くん、ご馳走様〜」
「あっ!ちょ!もう!」
繰り広げられる2人のコントに
笑いが止まらない。
アパートまで送ってもらうと、
西野が車の窓を開けて
「またな!」と手を振った。
伊藤ヨシハルさんは助手席で
煙草に火をつけている。
私も「またね」と手を振り返した。
西野には感謝してる。
浮かれ気分のまま布団に入り
ふふっと思い出し笑いをした。
楽しかった。
久しぶりに爆笑したな…
ふと、
伊藤ヨシハルさんの横顔が
頭に浮かぶ。
西野とばっかり話して
伊藤さんと何の会話もしてないや。
まあいいけど。
そういえば西野め、
なにが『猿田を気に入ってる』だ。
全然気に入ってないじゃん。
だいたい、あんな美形の男が
私なんかを相手にするはずがない。
なんだか急に悲しくなって
布団に潜って両膝を抱えた。
私は…
私は、誰からも愛されない人間。
そんなのわかってる。
脳裏に焼き付いてしまった
伊藤さんの笑顔を消すように
ギュッと目をつぶった。
それにしても…
あの時、心臓がトクンとしたのは
なぜだろう恋かしら←
