阿川さんの本を初めて読んだのは、1983年12月『南蛮阿房第2列車』でした。(何故わかるかというと、中学生の時に何気なく付け始めた読書リストがあるのです)。その後『雲の墓標』『暗い波濤』『米内光政』『山本五十六』等を読んでいます。なぜか『井上成美』だけは読む機会がありませんでした。
今回は『井上成美』に挑戦…はせず、『自選 南蛮阿房列車』を再読しました。戦争を題材にした重厚な小説で知られる阿川さんの、もう一つの顔が「乗り物キチガイ」(現代では差別用語と取られがちですが、一種の褒め言葉です。阿川さんも本書の中で斎藤茂太氏を「飛行機気ちがい」と実弟の北杜夫氏に向かって評しています)。今ほど海外旅行が一般的ではなかった昭和50年代に、わざわざ世界中の列車に乗りに行った話を集めた一冊です。
「欧州畸人特急」 遠藤周作・北杜夫氏と共にヨーロッパへ。阿川さんは2人を2畸人と書いている。パリに着くと阿川さんはトゥールーズまでの汽車旅に2人を誘うが、あっさり断られてしまう。翌朝、一人でトゥールーズ行き特急に乗る阿川さん。6時間以上かかってトゥールーズに着くとそのままタクシーで空港へ、1時間強でパリへ戻って来る。畸人とは阿川さんのことだった。
「アガワ峡谷紅葉列車」自分と同じ名前のアガワ峡谷を目指してカナダへ。観光列車に乗ってアガワ峡谷に向かうが「アガワ駅」には本来列車は止まらない。車掌と交渉して「アガワ」に列車を止めてもらい下車。無人駅での一時を過ごした阿川さんは、これも特別に止まってもらった対向列車に乗って戻ってくる。昨今「秘境駅」ブームだが、40年前に海外でこんなことをしている阿川さんはスケールが違う。
以上のような「南蛮阿房列車」エッセイは19本、本書はそのうちの13本を選んで収録。元本2冊のうち『第2』は読んだが、『南蛮阿房列車』を読んだことがない。未読の数編を読むために古書店を探すことにしよう。
阿川弘之さんのご冥福をお祈りして、この一文を終わります。