私が火坂さんの名前を知ったのは、北上次郎氏のレヴューだったと思います。「まだ荒削りだけども今後が楽しみ」といった内容で、『花月秘拳行』を紹介していたと記憶しています。当時は北上さんの紹介する本を必ずチェックしていたのですが、「火坂」という"尖がった"ペンネームをなんとなく嫌ってすぐに読むことはありませんでした。
それから数年、ようやく『花月秘拳行』を読んだのが1997年。確かに面白くて、その後も何冊か読みました。そして1999年に『全宗』それまでの伝奇小説とは一変して、本格的な歴史小説でした。豊臣秀吉の側近だった無名な人物が主人公、まぎれもない"傑作"。火坂さんが本当に書きたかったのは、こんな作品だったのでしょう。
その後は快進撃『覇商の門』『黒衣の宰相』『黄金の華』『虎の城』『天地人』『沢彦』は、オススメです。
過去に書かれることが少なかった人物を主人公にして、"火坂史観"とでも言うべき世界を構築。私にとって一番好きな歴史小説家でした。読んだ作品数は昨年の『気骨稜々なり』まで34作品でした。今後は、未読の作品を少しずつ探すことになります。
そんな火坂さんのデビュー作である『花月秘拳行』を再読しました。ブログに書くのが遅くなった理由がこの再読で、何かを読もうと思ったのですが手元に本がありません。新作は図書館で借りて読んでいたので、所有していた本は数冊だけ。自宅で探しだすのに時間がかかりました。私は火坂さんに収入をもたらさない読者でした、申し訳ない。

『花月秘拳行』富士見書房 時代小説文庫
装画 坂本勝彦
主人公は「西行」、拳法の達人という設定。ある目的のために、たちはだかる秘拳の使い手を次々に倒していくという『リングにかけろ 阿修羅篇』的な展開。漫画とちがうのは「ブーメラン・スクエアー‼︎」「ギャラクティカ・マグナム‼︎」と叫ぶ余裕はないので、戦う前に相手が自分の技を説明してくれること。語りが終わってようやく戦闘開始…。書いてしまって良かったのだろうか?これから読みたいと絶対に思わないですよね。実際はそんな単純な話ではなくて、細かい設定や仕掛けがあってそれなりに読ませます(だからこそ何冊も読んだわけです)。
「処女作には、その作家の全てがある」。嘘ですね、この小説には火坂さんの魅力の半分もない。ただし、売れそうな話なのは事実。こういうペーパーバック的な(ノベルズ的な)小説を書き続ける中で、筆力を蓄え徐々に地位を確立。本当に書きたかった歴史小説を書けるようになったのでしょう。火坂さんの臥薪嘗胆に敬意を表します。これをオススメにした北上次郎氏の慧眼もすごいですね。追悼と表題にしておきながら作品を褒めていませんが、のちの歴史小説群は紛れもない傑作揃いです。
火坂雅志さん、享年58歳。もっと多くの新作を読めることを全く疑っていませんでした。たくさんの作品、ありがとうございました。ご冥福をお祈りします。