アシダカグモって知ってますか?

大きい物では10㎝にもなる大きな蜘蛛。

日本に住む蜘蛛では最大種。

徘徊性で網を張らずゴキブリなどの衛生害虫を捕食する。

 

こいつに初めて出くわしたのは小学生の頃。

夜中に小用をしたくなり目が覚めた。

寝ぼけ眼にトイレに行って用を足していると、

目の前の壁にアシダカグモが張り付いていた。

驚いて心臓が口から出そうになった。

しかし寝る前にスイカを食べた膀胱からは、

大量のオシッコが放出されて止まらない。

 

蜘蛛は動かない、オレも動けない…

じっと蜘蛛を見ていると、向こうもこちらを見ている気がする。

やがてオシッコが止まった。

オレはそーっとトイレのドアに手を伸ばした。

その瞬間、奴が素早く動いた。

もう振り返れない。

脱兎の勢いでトイレから逃げ出した。

 

そんな恐ろしい思い出があるこの蜘蛛に大人になってからもう一度遭遇した。

 

数年前のこと、当時は愛犬スパイク(チワワ)と一緒に寝ていた。

深夜のことだった。

熟睡していたオレの顔の上を何かが通った。

とっさに目が覚めた。その枕元に奴がいた。

あろうことかこの蜘蛛嫌いのオレの顔の上を何の断りもなく奴が横切った。

悲鳴に近い声を上げて飛び起きた。

奴も素早く身を隠した。

もう恐ろしくて寝ていられない。この次はどこから出てくるかわからないから、

部屋の真ん中に丸椅子を出してその上に立ち尽くした。

 

あっ、愛犬スパイクを忘れてた。

 

スパイクは勇敢な忠犬である。

愛する主人の顔の上を無断で横行闊歩するような野蛮な蜘蛛を、

放っておくはずがない。見つけ次第天誅を加えるだろう。

勢いあまってムシャムシャ食べてしまったらどうしよう。

そのあとでオレの顔をペロペロされたらたまったものじゃない。

慌ててスパイクを抱いてまた椅子の上に戻った。

 

深夜に部屋の照明を煌々とつけ、椅子の上でスパイクを抱いていた。

もう怖くて椅子から降りられない。

このままでは成す術がないので、人を呼ぶことにした。

大声で「おーい!」深夜に叫んだ。

 

隣の部屋から娘が起きてきた。

娘:「夜中に何やってるの。」

俺:「蜘蛛が出た。」

娘:「何よ蜘蛛ぐらいで。」

俺:「こんなにでかいやつだぞ。キンチョール持ってこい。」

その時奴が現れた。

オレは驚いて椅子から転がり落ちそうになった。

奴は垂直の壁を素早く移動した。ベッドの横の壁から窓の方へ。

窓のふちにかかる時、タイミングよく娘がスッと窓を開けた。

奴は窓の外へ逃げて行った。

窓をピシャっと閉めて娘が言った。

娘:「もうバカみたい。早く寝な。」

 

オレの部屋に平和が訪れた。

 

蜘蛛は大嫌いだ。