子供の頃の家にイチジクの木があった。
大きな木で二階の窓から実が採れるくらいの、
大きなイチジクの木。
このイチジクの実を採って食べた思い出がある。
二階の窓から一階の瓦屋根に窓から出て採れる。
このイチジクが美味しいから、兄と二人で採ろうとたくらんだ。
一階の屋根の先端まで行ってやっと届く距離にイチジクがある。
もう少し手を伸ばせば届きそうだが、
屋根から落ちそうで恐い。
そこで、兄と二人で浴衣の紐をほどき結んだ。
それを兄がオレの体に縛り、
イチジクを採って来いと言った。
「オレが行くの?」と兄に聞くと、
「お前の方が体重が軽いだろ」
「オレが行ってもいいけど、お前がオレの体をささえられるか?」
と言われた。
なるほど、その通りだ。
俺には兄の体を支えられない。
そしてイチジクを採りに行くことになった。
そして狙いを付けた大きなイチジクを目指し、
瓦屋根の先端に立った。
「兄ちゃん大丈夫?」
「心配ないから採れ」
ちょっと浴衣の紐に体重をかけてみる、
なるほど信頼できる兄だ。
びくりともしない
安心してイチジクに手を伸ばした。
瓦屋根の端っこに足をかけ、
紐に体重を預けてイチジクを掴む。
狙ったイチジクは簡単に採れた。
これはおいしそうだ、うれしくなった。
その横にも大きなイチジクがある。
これにも手を伸ばしもぎ取った。
その時「ブーン」という音が…
イチジクの木には大きなハチの巣があった。
イチジクを採ったときに枝が揺れ、
たくさんの足長蜂が飛び立った、
オレは必死に瓦屋根から窓に戻ろうとした。
その時、首の後ろに猛烈な痛みが走った。
足長蜂に刺された。
激痛が走るが何とか窓の近くに逃げよった。
もう少しで家の中に逃げれると思った。
その時、あろうことか蜂の大軍を目にした兄は、
ピシャリと窓を閉じた。
何という薄情な兄であろう。
蜂に刺された弟を見捨てて、
自分だけ安全を確保するために窓を閉じたのだ。
オレは必死だ、こんなに痛い思いは一度で沢山だ。
必死に兄が閉じた窓を開けて座敷に飛び込んだ。
だが続けて足長蜂も入ってくる。
窓は辛うじて閉めたが、数匹は入ってきた。
座敷の中をブンブン飛び回っている。
この時にはオレは泣き叫んで、兄も大騒ぎだった。
騒ぎを聞きつけた従妹のはっちゃんが
部屋に入った蜂を蠅たたきでやっつけてくれた。
オレは蜂に刺された痛さでまだ泣いていた。
はっちゃんキンカンを塗ってくれたが、
それでも痛くて泣いていると。
兄が「そのイチジクくれてやるからもう泣くな」と言った。
今ならば、「ふざけるなこの野郎!」ってなるところだが、
幼いオレはイチジクが食べられる喜びで
優しい兄だと思っていた。
いまオレは蜂と戦わずにイチジクを買って食べられる。
蜂はいまだに恐い。