台風と線状降水帯が大雨を降らせた。
そのあと気温が上昇し、いまとても蒸し暑い。
ふと子供の頃の暑い一夜を思い出した。
幼稚園の頃だから、多分4・5歳の頃。
2歳年上の兄と蚊帳の中で寝ていたが、
暑くてなかなか寝付けない。
蚊帳の外では、父が晩酌しながら母と話をしていた。
話の内容はわからないが、時々笑う父の声が聞こえた。
「暑くて眠れない」と兄が言うと、
父は扇風機を動かし、オレと兄の蚊帳のほうへ
風が来るようにしてくれた。
それのおかげで結構涼しくなった。
ウトウトしかけたころ、あることを思い出した。
それは…兄が話していた、
「扇風機をかけたまま寝ると朝には死んでいる。」
という都市伝説。
兄はもう寝てしまった。
もし、母が寝てしまい、扇風機がつけっぱなしであったら、
もとより酔っ払いの父はあてにならない。
オレは明日の朝には冷たくなっているかもしれない。
そう思ったらまた眠れなくなった。
もう、気が気ではない。
しかし扇風機を止めれば暑くて眠れない。
どうしよう…と真剣に悩んで、
まんじりともせずにいた。
そのうちに真っ暗な闇の中に引き込まれた。
かなりの暗闇を落ちて行った。
落下の速度が落ちて、やがて止まった時。
柔らかな光が見えた。
その光の向こうに、あの有名な閻魔様がいた。
大きな顔がこちらに向いて、
カッと目を見開いた。
オレのほうを見つめる閻魔様。
怖くて目をそらそうとしたが目も体も動かない。
オレは地獄に行くのか…

やがて地響きのような声で…
「地獄!」と叫んだ。
その時ハッと目が覚めた。
すっかり陽が昇った朝。
扇風機は止まっていた。