「終末」
妻が「キャー」と叫びながら開いたドアから洗面所へ駆け込んで行った。
妻の通った跡が水にあちこち濡れている。
ドアの外の廊下に出てみると、そこら中が黒い油のようなもので濡れている。
私はひざまずき、廊下の床に両手のひらをつくと、みるみる掌と指先から黒い油が溶け出して来て、あっという間に身体中が黒い油だらけになってしまった。
私は、その瞬間、今、自分たちは死ぬのだとわかった。夢の中だからか、痛みも苦しみもない。ただ、こうやって溶けてしまうのだ。
急いで部屋にとって返すと、洗面所から出て黒い油まみれになった妻が泣いている。
私は、駆け寄って「俺も一緒だよ、心配ないよ」と言って妻の素肌を抱きしめた。
妻は私の胸に顔を埋めて泣いている。私は、黒い油に溶けながら、心の中で「俺は君を愛しているのに、一緒に死ぬことでさえ君を安心させることが出来ないのか」と思い、悲しくなった。