1958年3月25日に録音され、「10月の終わり」、もしくは、「11月の初め」に発売された、「2枚目」の4曲入り「EP盤」が「オリジナル」です。

 

後に、この時期の他の録音も集められ、1965年には、「アルバム」としても発売されました。これが、日本でも発売されたレコード、「晴衣の男/バルバラ」 (EOS-40184)です(収録曲は、これまでにも書いている通り、アルバム、「エクリューズ(レクリューズ)座のバルバラ」のものも含んでいます)。

 

「21世紀」に入ってからは、当時のバルバラの呼び名であった、「la chanteuse minuit "真夜中の女性歌手"」というタイトルで「再発売」もされました(2001年。このイラストは、その「CDジャケット」のものです)。

 

この曲「D'elle a lui "彼女から彼へ"」は、もともとは、1903年に、アンナ・ティボー(1867-1948)という女性歌手が創唱した、いわゆる、「ベル・エポック」(1900年前後の、「良き時代」のこと)のシャンソンですが、さすがに、動画サイトでその録音を見つけることは出来ませんでした。

 

次に挙げているイヴェット・ギルベール(1865-1944)も、その「ベル・エポック」に活躍した女性歌手です(この曲は、彼女の「名唱」でも知られています)。

 

「カフェ・コンセールの大スター」として、現代でもその名が残るこのイヴェット・ギルベールは、「近代シャンソンの唱法」を「確立」したことでも特筆すべき「大歌手」です。詞の内容を重んじ、その「語り方」という点で、その後の歌手に与えた影響は計り知れないものがあります。

 

バルバラの「語り口」の「純粋さ」、「技巧」は、このイヴェット・ギルベールの「伝統の上に立つ」と、ラルースの「シャンソン事典」にも紹介されているということです。彼女の影響は、特に、「最初期」の作品に多く見られますが、映画でも歌われていた、「les amis de Monsieur "旦那様のお友達"」などは、その「良い例」だと思います。

 

イヴェット・ギルベールの録音は、現在、2種類がアップされています。

こちらは、「リマスタリング」されていて、「音の状態」は「極めて良好」です。

こちらには、「1934年録音」と明記されています。

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12491235062.html(前回の記事)

https://ameblo.jp/daniel-b/theme-10097047678.html(これまでの記事)

 

さて、前回から、この2日に日本でも「DVD」が発売された、映画「バルバラ~セーヌの黒いバラ」(2017年。マチュー・アマルリック監督)の劇中で歌われた(使用された)、バルバラ(1930-97)の名曲を紹介しています(この記事は、「DVD発売」の記事の「リブログ」となります)。

 

採り上げている作品は、次の3曲です。

 

「前回」...「du boud des levres "口先だけで(くちびるの端に)"」(1968)

「今回」...「d'elle a lui  "彼女から彼へ"」(1903-58)

「次回」...「attendez que ma joie revienne "わが喜びの復活"」(1963)

 

今回紹介する曲は、「d'elle a lui "彼女から彼へ"」。

 

原曲は、「ベル・エポック(「良き時代」)」と呼ばれた、「1903年」のとても古い曲ではありますが、その「精神」は、現代でもそのまま「通用」する、とても素晴らしい「名曲」であると言えると思います。

 

バルバラとしても、この作品を採り上げていた頃というのは、まだほとんど「自作」がなかった「1958年」のことで、そのキャリアの「最初期」ということになります。

 

この頃の作品としては、先月にも、「le cri des sirenes(les sirenes) "レ・シレーヌ"」という曲について書きました。

 

今回の曲も、映画の中で使われてはいましたが、現在では、「知る人ぞ知る作品」と言っても過言ではありません。

https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12476607278.html?frm=theme(「レ・シレーヌ」についての記事。「最初期」のバルバラに関しては、こちらの記事を、ぜひご参照ください)

 

先述の通り、この曲は「1903年」という、現在からはすでに「100年以上も昔」の作品ではありますが、詞の内容としては、「今も昔も変わることのない」テーマを歌っているものであり、その「描き方」も含めて、現代においても、充分「通用」するものを持っていると私は思います。

 

最近では、フラグソン(1869-1913)など、他の「ベル・エポックの大スター」の録音ですら動画サイトで聴くことが出来ますが、この曲の「オリジナル歌手」である、アンナ・ティボー(1867-1948)の録音は、今回は、見つけることが叶いませんでした...。

 

しかし、こちらの録音を見つけることが出来ました。

 

「1920年以前」という、かなり「古い時期」の、大変「貴重」な録音です(主に活躍していたのは、「1914年頃まで」と言われています)。

 

曲は、「quand les lilas refleuriront "リラの花が再び咲くころに"」。

 

続いては、イヴェット・ギルベール(1865-1944)の「代表作」を挙げておきましょう。

 

こちらは、レオン・グザンロフ(1867-1953)の作品、「le fiacre "辻馬車"」(1888, 1892年という記述もあります)。

 

イヴェット・ギルベールは、1895年に歌って「大成功」を収め、以降、重要な「持ち歌」となりました。

 

現在で言うところの、「ブラック・ユーモア」を感じさせる作品です。

 

この録音は、1930年のものだということです。

 

こちらは、「Madame Arthur "マダム・アルチュール"」(1927)です。

 

1850年頃に、「小説家兼劇作家」であったポール・ド・コック(1791-1871)が作った詩に、イヴェット・ギルベール自身が曲を付けたものです。

 

この録音は、1934年のものだということです。

 

この機会に、「最初期」のバルバラの「名作名唱」を、もう少し紹介しておきましょう。

 

次は、「menuet pour La Joconde "ラ・ジョコンダのメヌエット"」という作品です。

 

「ラ・ジョコンダ」とは、言うまでもなく、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の名画、「モナ・リザ」(1503-1505/1507, 「ルーヴル美術館所蔵」)の「モデル」の女性です。

 

ポール・ブラフォール(1923-2018)が書いたこの作品(当時の「最新曲」? ブラフォール自身も、この1958年に、「自作曲」によるアルバムを発売していました)では、「爆弾(おそらく、「原子爆弾」のこと)の下で微笑む」といった、当時の世相を「風刺」する内容も持っています。

 

こちらは、マルセル・キュヴリエールの書いた作品、「veuve de guerre "戦争未亡人"」です。

 

若くして「夫」を亡くした、ある寡婦の「身の上話」が歌われています。

 

「非情」なまでのその「運命」に心を打たれます...。

 

この作品は何と、1993年12月の、「最後のシャトレ劇場公演」でも歌われました(それも、終盤の「クライマックス」に...)。

 

その、「魂の叫び」を、ぜひ、お聴きください!!

 

それでは、以下に、「d'elle a lui "彼女から彼へ"」の歌詞を載せておくことにいたしましょう。

 

この作品は、先ほどからも書いているように、「ベル・エポック」の作品、つまり、「1903年」の作品なのです!!

 

作者は、ポール・マリニエ(1866-1953)という方で、この曲、「d'elle a lui "彼女から彼へ"」は、彼にとっても、「代表作」と言える作品と言えます。

 

内容としては、「近く結婚するから俺を忘れてくれ」という手紙を受け取った女性が、その「返事」の形で歌う曲です。

 

詞の特徴としては、やはり「話し言葉(俗語)」が「多い」といった印象です。

 

イヴェット・ギルベールは、この作品を、とても「表情豊か」に、「メロドラマ」として歌い上げており、それはそれで、大変「素晴らしい」と思うのですが、バルバラは、「情」に流されることなく、どちらかと言えば「さらっ」と歌っています(冷めてる?)。

 

一見、「能面」のようにも聴こえる歌ですが、そのことによって、かえって、「現実的」、「現代的」に聴こえます。

 

このバルバラの歌唱により、この歌はもはや、「100年以上も前」の作品とはとても思えず、「現代的な響き」をもって、私たちの心に響いてくるのです...。

 

今回の曲も、「古い作品」ですから、「歌詞」自体にも当然「変遷」があり、実際にバルバラが歌った歌詞の「確定」には、相当「苦労」しました。

 

それでも、従来の「日本盤」で馴れ親しんでいた訳詞(早川清至訳)などと「比較」しながらも、何とか、「満足」のいく訳詞に仕上げられたと思います。

 

この「名作」を、ぜひ、この機会にお聴きください!!

 

それではまた...!!

 

..........................................................................................................................................................................................

 

d'elle a lui  彼女から彼へ

 

tu me dis Leon, qu'il faut que je t'oublie

parce que dans quleques jours, tu vas te marier

ce qu'tu me demandes la, mais c'est de la folie

car il y a des amours qu'on ne peut oublier

je te l'ai toujours dit tu fus le premier homme

qui m'ait, chaste et pure tenue dans ses bras

oui, ca te fait sourire, ben, souris mon bonhomme

mais ca c'est une chose qu'une femme n'oublie pas

 

あなたのことを忘れろと言うのね、レオン

近いうちにあなたが結婚するから

あなたの言うことは馬鹿げているわ

忘れることの出来ない恋だってあるのよ

いつも言っていたように、あなたは

慎ましくて純粋な私を、その腕に抱いた最初の男

笑いたければ笑いなさいよ、わたしのいい人

でもそれは、女には忘れられないことなのよ

 

ah, oui, j'etais pure, c'etait ridicule

des choses de la vie j'savais rien de rien

a ce point que toi, pourtant qu'est pas un hercule

ben, ce que tu m'faisais j'trouvais ca tres bien

ah, t'aurais tout de meme pas fait comme ce colosse

des choses epatantes entre les deux repas

mais non, mon ami, non, je ne suis pas rosse

y'a tout de meme des choses qu'une femme n'oublie pas

 

ああ、そうね 私は純粋だったわ おかしなこと!

私は、人生について、何にも知らなかった

あなたは力の強い人(英雄ヘラクレス)ではなかったけれど

あなたがしてくれたことはとても嬉しかった

ああ、でもあなたは、やっぱり、その「巨人」のような

派手なことをしてくれたわけではないけれども

いやいや、別に意地悪で言っているわけじゃないの

でもやっぱり、女には、忘れられないことがあるのよ

 

en ce temps-la, t'etais pas vetu comme un prince

tu gagnais quelque chose comme cent francs par mois

quand on a le ventre creux, on a la taille mince

j'aime pas les gros hommes, ben, t'etais de mon choix

je menais une vie sobre tout autant que rangee

ah, tu te souviens pas de ca maintenant

que t'es gras ce que j'en ai bouffe d'la vache enragee

et ca c'est une chose qu'une femme n'oublie pas

 

あの頃のあなたは、身なりも貧しくて

稼ぎも大した額ではなかったわ

ろくに食べられもせずに、痩せていた

もっとも、私は、太った人は好きじゃなかったけれども

私も、自分相応な、質素な暮らしを送っていた

ああ、満ち足りている今のあなたは思い出さないの?

私がどんな生活をしていたか

それは、女だったら忘れられないことなのよ

 

ce qui n't'empechait pas de faire des p'tites bombances

et d'chercher ailleurs un autre bien que le tien

ah, tu m'en as fait voir de toutes les nuances

et tu pretendais meme que le jaune m'allait bien

et quand je pense que moi, moi, j'etais fidele

dans la vie d'une femme ca compte en tout cas

le cas est assez rare pour que j'me le rappelle

et ca c'est une chose que j'n'oublierai pas

 

あなたがちょっと贅沢に食べたり

他で良いものを探して来るのは構わなかったわ

ああ、あなたは私をいろいろと辛い目にあわせた

私には黄色が似合うとまで言ったあなた

それで私はと言えば...従順だった

女の人生では、それはとっても大切なこと

いずれにしても、思い出すことはめったにないけれど

それでも、それは、私が忘れられないことなのよ

 

et le jour ou je t'appris que j'allais etre mere

un enfant a nous, mais c'etait fabuleux

tiens, je l'ai la ta voix dans le creux de mon oreille

ah non, pas d'enfant, on est assez deux!

ah, tu te fichais bien de ma vie de ma souffrance

ce qui prouve, mon ami, que si t'es mufle au fond

mais c'est pour toujours plus que j'en fais des experiences

car il y a des choses qu'une femme n'oublie pas

 

あの日... 私が「母親」になると、あなたに告げた日...

私たちの子どもよ 夢みたい

でも、あなたの声が今でも耳に残って離れない

「ああ、ダメだ。子どもなんていらない。二人だけで充分だ!」

あなたはどれだけ、私の人生を、苦しみを無視すれば気がすむの

あなたって、何てどうしようもない人なのかしら

でもそれは、私が経験した以上に、後々まで残るものよ

だって、女には、忘れられないことがあるのだから

 

ah, puis tiens tu me rendrais mechante si je remue tout ca

c'est que j'ai tant de peine j'croyais qu'on vivrait toujours

tous les deux, mais non, j'irai pas chez toi faire des scenes

tu veux t'en aller, va-t'en, sois heureux

mais t'oublier, non, je t'avoue ma faiblesse

songeant au passe, je pleurerai parfois

car ce temps-la, vois-tu, c'est toute ma jeunesse

et ca c'est une chose qu'une femme n'oublie pas...

 

ああ、私がいろいろかき回したら、私のことを性悪だと思うでしょう

二人で、ずっと生きていこうと思っていたのに、とても辛いわ

でも私は、あなたのところで悪あがきはしない

行きたいのなら行って さようなら ...お幸せにね

でも忘れない... 弱いことは認めるわ

過去を振り返って、時には泣くこともあるでしょう

だってあの頃が...、私の青春のすべてだったから

そしてそれは...女が忘れられないことなのよ...

 

Chanteuse De Minuit Chanteuse De Minuit
6,087円
Amazon

 

Integrale Integrale
10,004円
Amazon

 

Chatelet (2cd) Chatelet (2cd)
4,651円
Amazon

 

 

Yvette Guilbert Yvette Guilbert
 
Amazon

 

(daniel-b=フランス専門)