今回も、現在開催中の「武生国際音楽祭2016」の演奏曲を採り上げます。昨日(7日、水曜日)というのは、期間中、唯一会場に足を運ぶことができる日であり、実際に聴きに行ってきました(越前市文化センター 19時開演)。

「弦楽器とピアノ・ハープの共演」(伊東恵プロデュース2)と題されたこのコンサートは、全曲、「室内楽曲」によるプログラムです。その曲目は、次の通りとなります。

マーラー(1860-1911):ピアノ四重奏曲断章 イ短調(1876頃)
サン=サーンス(1835-1921):幻想曲 イ短調 Op.124(1907)
シェーンベルク(1874-1951):幻想曲 Op.47(1949)
シューベルト(1797-1828):弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調「死と乙女」D.810(1824-26)

シューベルト以外は、すべて、「初めて聴く曲」となります。しかも、「大変珍しい曲」ではないでしょうか。特にマーラーは、「交響曲」(第1~9番、「大地の歌」、未完の「第10番」)や、「さすらう若者の歌」(1883-85)、「亡き子をしのぶ歌」(1901-04)といった「歌曲」以外ではあまり知られていないのが「普通」だと言えます。

そのマーラーの曲は、彼が、ウィーン音楽院在学中の1876年頃(16歳!!)に書かれた作品だということです。後に、マーラー自身が、「学生時代で、最もうまく書けた作品」だとも言っていたそうです。コンクール出品のためにロシアへ送ったところ、その楽譜は行方不明となってしまいましたが、マーラーの妻、アルマの死後、彼女が所有していた草稿の中から、この四重奏曲の「第1楽章」が見つかったと言います。
当時のマーラーは、ブラームス(1833-97)の作品を手本にしていたと言われ、この作品にも、その「影響」がうかがえます(私自身、とても「美しい曲」だと思います。ちょっと驚きました)。
この作品は、1964年2月12日にニューヨークで初演され、1973年に出版されました。

サン=サーンスの曲は、ヴァイオリン奏者と、ハープ奏者であったアイスラー姉妹のための曲だそうで、1907年7月3日、ロンドンで初演され、好評を得たようです。
私も、この曲は、いかにも「サン=サーンス」らしい、「フランス」らしい香りのする名曲だと思いました。
ちなみに、今回のステージでハープを弾かれていたのは、日本が誇る世界的奏者、吉野直子さんでした。吉野さんは、これまでも当音楽祭に参加してくださっています。

本当に、この、マーラー、サン=サーンスの2曲だけでも、聴きに来る価値のあるコンサートです。

前半最後の作品は、シェーンベルクの「幻想曲」です。「無調性音楽」、「12音音楽」に不慣れな方、苦手だという方は、パスしてもらっても良いと思います。

1920年代に、「12音音楽」を編み出したシェーンベルクの技法は、「革新的」ではありますが、曲の統一性という考えに関しては、非常に「古典的」であると言われています。
この曲は、アメリカに亡命した彼が、ヴァイオリン奏者、アドルフ・コルドフスキーに委嘱されて、1949年に作曲した作品です。同年9月13日(シェーンベルクの誕生日)に、ロサンゼルスで初演されました。

10分の休憩の後、いよいよ、本日のメイン曲、シューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」です。
この曲を、「ナマ」で聴くのは、初めてか、あっても、あと1回あったかな、ぐらいな感じです。5日のピアノ曲にしてもそうですが、ただでさえ「数少ない」チャンスを、これまでにも「多く」逃している感のあるシューベルトです。

シューベルトの弦楽四重奏曲の中で、前作である第13番 イ短調「ロザムンデ」Op.29-1, D.804(1824)と並んで有名な作品です。その「ロザムンデ」と、同時に着手されたとのことですが、そちらがほどなく完成したのに対し、この「死と乙女」は、第1楽章と、第2楽章の大半を書いていながら、長く、中断されていたと言います。1824年、25年ともに、夏に旅行をしたことも関係しているようですが、最終的には、1826年の1月に一気に書き上げられました。

第2楽章(主題と5つの変奏曲)の主題に、歌曲「死と乙女」D.531(1817, マティアス・クラウディウスの詩による)のメロディが使われていることから、このタイトルが付いています。
元の歌曲は、長いものではなく、「私はまだ若いのだから、触らないで」と、死神に懇願する乙女と、「私は、君の友だちだ。私の腕の中で安らかに眠らせてあげよう」と、ささやく死神との「対話」の形となっています。

全楽章が「短調」と、シューベルトの作品の中でも、特に「暗い雰囲気」を持つ作品となっています。しかし、同じ頃に書かれたピアノソナタ 第16番 イ短調 Op.42, D.845(1825, 「のだめカンタービレ」でも登場しましたね)も、全体的に「暗め」となっていますので、当時の体調や、精神的なものも、少なからず影響しているようです。

また、この作品は、最晩年のピアノソナタ 第19番 ハ短調 D.958(1828)にも近いものを感じます。ともに、ベートーヴェン(1770-1827)を意識したその曲想と、最終楽章が、「タランテラ」(イタリア・ナポリ発祥の舞曲)であることからも、そう思います。

今回のステージでは、全員が「日本人」の演奏家でしたが、そのようなことは特に問題ではありません。どの曲も、その素晴らしい「アンサンブル」に圧倒されました。よく知られている曲「死と乙女」では、特に「注目」が集まりますが、その「音」の美しさといい、「調和」といい、「迫力」といい...とても納得のいく「名演奏」だったと、それは間違いなく言うことができます。

今回は、音楽祭のプログラム(冊子)他、いろいろな文献を参考にしました。これで、各曲の魅力はもちろんのこと、当音楽祭の魅力までもがお伝えできたのだとしたら、私としても、大変嬉しいのですが...。

武生国際音楽祭の今年のテーマが「シューベルト」であり、最終日(11日)には、「ミサ曲 第5番 D.678」(「フェスティバル合唱団」が参加)も演奏されます。

来年、シューベルトは、「生誕220周年」となりますが、その前に、11月19日が「命日」となります。
その頃にまた、シューベルトの曲を採り上げることができたらな...と思っています。

(daniel-b=フランス専門)