本日は、久しぶりに「クラシック音楽」がテーマとなります。
とはいっても、「正式な記事」で言うと、ブログ投稿に「不慣れ」であった、「最初期」以来ですから、事実上「初めて」と言っても良いかも知れません。

今回は、6月9日に「没後25周年」を迎えます、南米・チリ出身の、ピアノの偉大な「マエストロ」(巨匠)、クラウディオ・アラウさん(1903-91)について書きたいと思います。

アルフレート(アルフレッド)・ブレンデルさん(1931-)とともに、旧フィリップス・レーベルを代表するピアニストでした。

私が、本格的にクラシック音楽を聴くようになったのは、1987年から88年にかけて録音された、ブレンデルさんによる、シューベルト(1797-1828)のピアノ作品集がきっかけでした。1822年から28年という、「奇跡」とも言うべき、最後の7年にしぼった作品集で、当時、リリース3作目であった「ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調 D.958/楽興の時 D.780(op.94)」を、当時の「新星堂金沢店」(現存しません)で購入したのが始まりです。

その時は多分、「ピアノ曲でも...」と思ったのでしょう。何となくタイトルを知っていた「楽興の時」や、聞いたことのある名前のピアニスト、「ブレンデル」...。もう、理由もはっきり思い出せませんが、とにかく、陳列されていた商品が眼にとまり、すでに親しくさせていただいていた店員さんにも「おススメです」と言われて、「じゃあ...」といった流れだったかと思います。

私は、「シューベルト」と「波長」が合うのか、「専門はシューベルト」と言っていますが、もっと専門の方もいらっしゃいますから、あくまでも、「愛好家」ということで...。

私がアラウさんを知ったのは、当時、「フィリップス・レーベル」ばかり集中して買っていたからだと思います。かなりの期間、「本社(オランダだったか、ドイツだったか...)」からも、「最新リリース情報」を郵送で送ってもらっていたほどでしたから...。
それに、「レコード芸術」誌(音楽之友社刊)の評価も参考にしていました(現在では、「評論家の意見100%」という聴き方はしていませんが、当時は、これが、「ムダ買い」をなくす目安になっていたことは確かです)。

クラウディオ・アラウさんと言えば、私の中では、「ベートーヴェンの大家」です。持っているCDの量が、ブレンデルさんほどではないこともありますが、とにかく、アラウさんの弾くベートーヴェンは「素晴らしい」と思います。

今回、動画(音源のみでも)をどうしても見つけられなかったのが「痛恨の極み」なのですが、ブレンデルがシューベルトを録音していた頃とほぼ同時期に、アラウは、サー(Sir)・コリン・デイヴィス指揮ドレスデン・シュターツカペルレとともに、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲全集」(アラウ自身3度目)を録音していました。また、並行して、2度目となる「ピアノ・ソナタ全集」も録音を進めていました。
この中から、私がどうしても挙げたかったのが、「ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op.37」(1800)と、このCDのカップリングであった、「ピアノ・ソナタ第6番 ヘ長調 op.10-2」(1798)です。
特に、後者のピアノ・ソナタは、ぜひともここに上げたかったのです。

ベートーヴェンは、当時の最新機器「メトロノーム」を最初に使った作曲家と言われています。
このメトロノーム。開発され、特許を取得したのが、1812年から16年にかけてとされていますから、ベートーヴェンが実際に使っていた頃というのは、もう、「後期」に当たります。交響曲で言えば、第7、第8のころ。ピアノ・ソナタで言えば、第27番、第28番のころです。
ベートーヴェンは、メトロノームでの「速度指定」を楽譜に書き残していますが、実際、この通りの速度で演奏すると、ものすごく「速い」テンポだということも知られています。
かつては「古典的」、現在では、「作者の意図に忠実」という触れ込みで、この「速いテンポ」での演奏が実践される傾向もありますが、それに異を唱える芸術家ももちろん存在します。もちろん、年齢的なものもありますが、アラウさんは、「速く弾くだけが能ではない」という事を、その録音で証明していたように思います。

「重厚」で、「いぶし銀」のように「渋い」、サー・コリン・デイヴィスとの「ピアノ協奏曲」。
そして、ピアノ・ソナタ第6番の第2楽章も、「標準」の演奏ではもはや聴こえない「音」まで聴こえてくる、大変「味」のある名演となっています。この楽章は、曲自体がとても「印象的」な旋律を持っているのですが、「弾き方」次第でこうも変わるのか、と驚かされます。

さて、今回見つけたこの映像も、そのアラウさんの「魅力」が存分に堪能できる「名演奏」だと思います(確認情報追加:エンドクレジットで、1977年、当時西ドイツの首都で、ベートーヴェン出生の地であるボンで行なわれた「ベートーヴェン・フェスト」と出ました。作曲家の「没後150周年」イベントです。となると、74歳での演奏となり、先述のCDからは「一回り」若いころの映像となります)。

この曲、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111」は、1822年に完成した、「最後」のピアノ・ソナタです。ピアノ曲で言えば、この翌年に、あの大曲「ディアベリのワルツによる33の変奏曲 ハ長調 op.120」が完成し、あの「第9交響曲」が1824年と、ベートーヴェンは、最晩年まで作曲を続けていました。すでに「全聾」であったにもかかわらず、このような「美しい曲」が、次々と、生み出されていったのです。

どのようなジャンルでもそうですが、「最後の作品」となると、聴く側の「私」も「厳粛」な気持ちにさせられます。また、そのような曲になっていますよね。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタは、第30番以降が、「後期3大ソナタ」として、「1枚」になっていることが多いのですが、この第32番に到達すると、ある種の「緊張」を覚えます。もちろん、「良い意味」でですが...。シューベルトの場合ですと、曲が「長い」ということもありますが、最終楽章の、あの開始の「オクターブ」の和音を聴いたときですね...。

ベートーヴェンは、「古典派」から「ロマン派」へ「橋渡し」をした作曲家として知られています。最も近かったと思われるシューベルトをはじめ、ショパン、リスト、シューマン、メンデルスゾーンなど、ロマン派を代表する作曲家たちは、何かしら、ベートーヴェンの影響を受けていることは間違いありません。

このソナタは、すでに「古典派」の様式からは脱却していると思います。2楽章で終わっているのも、もう、これ以上は「必要ない」からです。
その2つの楽章は、非常に「対照的」で、「低音」が重々しく響く第1楽章と、「天上の世界」をも思わせる第2楽章とで、そのイメージはガラリと変わります。ともに「崇高な」音楽に変わりはありませんが...。

そして今日、私が少し驚いたのが、この映像をここに上げる前に私が思ったことを、みなさんがすでに「コメント」に書いていることを「確認」したことでした。
具体的には、「15分30秒ころから」のことですが、ここは、第2楽章「アリエッタ」(主題と6つの変奏からなる「変奏曲」です)途中の「第3変奏」開始部分となります。
その昔、ヴィルヘルム・バックハウス(1884-1969)の演奏で、初めてこの曲を聴いたときから思っていたことですが、この曲は、すでに、「ロマン派」をも飛び越え、「クラシック音楽」の範ちゅうからも「脱却」しているのです。多分、「100年先」の音楽を先取りしています。

「動画サイト(YouTube)で見る」を選択すれば、コメント欄に、その部分へスキップできるものがありますから、それも使ってみてください(実際、「頭出し可能」は確認しました)。

そうです。この部分は、すでに「ジャズ・ピアノ」の世界なのです。このアラウさんが「即興」で弾いているわけではなくて、「譜面の通り」なのです。これは「驚き」ですよね...。
ベートーヴェンが、その「心」に描いた曲は、「遠い未来の、遠い地」で発展した音楽に「そっくり」だったのです...。

「クラシック音楽」、しかもベートーヴェンとくれば、みなさん、「堅苦しい」と、「敬遠」されるかも知れませんが、案外、こういう発見から「ハマっていく」ものなのです。私は、そう思います。

6月9日は、シャンソンのバルバラ(1930-97)の誕生日でもありますが、このアラウさんの命日(しかも、「没後25周年」です)でもあります。そのことも忘れないようにと、書いてみました。
私がアラウさんの「訃報」を知ったのは、実は、「新幹線の車内」の電光掲示板でのことでした(当時の新型車両、あの「2階建て車両」連結の「100系」のみの搭載でした。初代「のぞみ」の「300系」が登場したのは、翌春のことです)。
そのニュースの流れた日、私は、「ひかり」で、東京に向かう際、それを目にしたのです。ですから、「没後25周年」までは覚えていなくても、「命日」は何となく覚えていました。
「クラシック初心者」のころに聴いた、名演奏家クラウディオ・アラウ。没後25周年を機に、また「聴いてみたい」と思うようになりました。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111(1822)

第1楽章 Maestoso-Allegro con brio ed appassionato(00:00)
第2楽章 Arietta. adagio molto, semplice e cantabile(09:00)
Var.1(11:43)
Var.2(13:43)
Var.3(15:29)
Var.4(17:37)
Var.5(18:14)
Var.6(20:47)

(daniel-b=フランス専門)