美味しそうなハンバーガーの広告が流れてきました。

そのチェーン店舗が生活圏になく、これまであまり利用したことありませんでしたが、広告のメニューは期間限定らしく、たまたま近くを訪れる機会があり、ついでに寄ってみることに決めました。
お店に着くと、メニュー確認のために事前にインストールしておいたアプリから会員バーコードを表示させ、テイクアウトを注文するレジで若い店員さんに差し出します。
「会員証は、先にご注文いただいて、お会計のときにお願いします」
(なるほど、そういうものなのか)と、「すみません。こちらのお店もアプリも初めてで慣れていなくて…」と告げると、少し空気の変化を感じました。
 

「ありがとうございます。メニューはこちらをご覧ください」
ふだんハンバーガーチェーンで「メニューはこちら」などと言われたことがありません。勝手に見て注文するだけのことです。応対される声質もやわらかくなったようで、なんだか必要以上の親切さを感じました。
ひとつの考えが頭をよぎります。

(…もしかして、“いたわられている”のか?)

店員さんは「お店もアプリも初めてで」を、「ハンバーガー屋さんで注文するのもアプリというものを使うのも初めてで」と曲解したのかもしれません。「アプリを使えない初老」だと思われている可能性があります。

その日の朝に鏡で白髪を観察したことを思い出しました。
分け目や生え際にところどころ白髪が目立つようになってきていました。
いつもならばすぐさま染めているところですが、しばらく放置しています。
先日、あるお医者さんが健康診断の大切さを説いていました。
身体は変化していくものだが、その差異は日々少しずつのものなので自分では気づきにくい。だからこそ定期的に診断を受けて、客観的な視点から導き出したいまの状態を知っておくことが健診の意義である、というようなことでした。
若いときから、いわゆる「若白髪」はあったものの、40代なかばの初老であるからには既に「本白髪」であり、その数は年々増加傾向にあります。いま現在の白髪の状態を知っておくために、あえて放置していたのでした。

改めてまじまじと自分の白髪を眺めてみると加齢を感じます。顔の作りは若いのに総白髪の人がいれば、逆に年齢を感じさせる顔つきなのに黒ぐろとした毛量を保っている人もいます。どちらもアンバランスさが印象に残りますが、自分の場合は年相応といったところでしょうか。ありがたいと思わなければなりません。
ただ精神はそこまで老いていないと思っています。身体には疲れが残りやすくなったものの、心のほうはさほどの変化を自覚していないのです。いまだに新しいものに対して拒否反応はありません。とは言え、他人からこちらの内面は見えないものですから、知らない人からはステレオタイプの初老中年男性と捉えられていても不思議ではないでしょう。

ハンバーガーの注文に戻ります。
われわれの世代はインターネット黎明期からパソコンに触れており、僕自身もサイトを作ったりシンプルなアプリ開発をするくらいの知識は持ち合わせています。昨今のユーザーフレンドリー設計のアプリなど初見でも問題ないのですが、いまの若者は「おじさん=デジタルに疎い」という認識を持っている人も少なくないと聞きました。
若い店員さんと認識のズレがあるようです。

「クーポンを使いたいのですが…」
「それならいちど前の画面に戻ってもらって、クーポンと書かれているところを押してください」
親切な接客が続いています。文章にすると普通ですが、いたわってもらってる感じがありました。
「使いたいクーポンが何枚かあるのでゅえす」
加齢のことを意識しすぎるあまり、あやうく「あるのじゃが」とコントのじじいキャラみたいな口調になりそうなところをなんとか「でゅえす」と踏みとどまりました。
「まず一枚目を選んでもらってこちらで読み取ってから、画面を横にずらして、指をズイッと」
…指をズイッと?きっとスワイプのことでしょう。画面に這わせた指をズイッとずらしました。
「そうです、そうです!」

こちらの想定以上の年寄り扱いをされているような気がしないでもありませんが、いたわってくれています。せっかく親切な接客をしてくれているならば、アプリのメニュー表だけではわからなかった商品の特徴について聞いてみることにしました。
「え〜と、…このハンバーガーと、こちらのハンバーガーの違いはなんでしょう。似たような感じですが」
カウンターに置かれたメニューでキャンペーン中の商品を指差します。
「こちらは辛いソースがかかっているのですが、もうひとつの方はクリーミーで辛くないです」
「ほう、辛いんですか」
「はい、とても辛いです」
辛いソースのハンバーガーは初老では食べられないと思われているようです。
心配そうな素振りで気遣ってくれている様子がうかがえました。


それを買いに来たのです。