肘部管症候群に対し尺骨神経前方移行術をし、5週間が経過しました
これまで多くの患者さんの術後理学療法に携わってきたとはいえ、手術直後は心を整えるのが難しく、なかなか振り返ることができませんでした。
一方で大学院の課題は待ってくれませんので、術後の腫れる手を机の上の枕に置き、
PC片手打ちとコピペ多用で(plagiarismに注意して)乗り切りました
どこにでも書いてあることですが、肘部管症候群(Cubital tunnel syndrome)は圧迫の原因を手術で解除しても、痺れや感覚鈍麻は長らく残ります。回復は1年とか、年単位です。
Cochrane Libraryが提供する肘部管症候群に関するシステマテックレビューのprimary outcomeによると、手術の種類によらず70%の方の臨床症状が改善します。
それはつまり30%では改善が認められないと
術前取り憑かれたように術前状態で予測する機能予後について調べたのですが、それについては有力な文献を見つけることができませんでした。
どなたかご存知であれば教えていたたけると嬉しいです。
ただ、神経伝導検査で運動神経と共に感覚神経にも遅延/振幅低下が認められる場合、握力が著しく低下している場合、筋萎縮がある場合は重症度が高い群になり、その予後は総じて悪いという記述は散見されました。
自分が『重症度が高い群』に該当するだろうなということも、術後機能改善しない30%に入るかもしれないことも納得した上での手術でした。
さて、ここでセカンドオピニオンについて書きたいと思います。
過去に「セカンドオピニオンを(日本で)受けようか迷っている…」という日本人知人に相談を受けたことがありました。その時は日米双方の医療に明るい、知りうる限りの日本人医療従事者に相談しましたが、自分が受診することになって具体的な流れを把握していないことに気付きました。
一度やってみるととてもシンプルでした。
①最初の医師に「手術の決心をするためにセカンドオピニオンを受けたい」と申し出て、
②どの検査結果を持参する必要があるか聞き、その場でプリントアウトをしてもらい
(私の場合は神経伝導検査)、
③必要なら手術または次回診察の予約を一応とっておき(←これは後で電話でキャンセルできる)、
④目的の病院のトップページから診察予約を取る。
それだけでした。
保険上、同一診断名での複数医師の受診ってどういう扱いになるんだろう?と疑問でしたが、何ということもなく
specialistに1回受診=copay $50(※)を支払う、
だけのことでした。※私の保険の場合です
今回は手術適応の整形疾患であることがほほ確定的だったこと、であればPTやOT(作業療法士)に意見を聞きたいと思い、地元で働くPTと、講習会で知り合った、地元屈指の整形外科病院に勤務しているOTに相談しました。地元で働くPTからは、手術を受けるのであれば、その地元屈指の整形病院が良いと勧められ、またその病院のOTにはhand teamに属する11人の医師のうち、3人の医師を勧められました。アメリカは医師を指定して予約する必要があるので、知人からの情報でここまで絞り込めたのは幸いでした。
3人のうち2人は明らかに重鎮らしいタイトルをつけていたので回避し、1番若手の方に予約することにしました。
Hospital for Special Surgeryは整形部門で過去9年、全米ランキングNo.1(US news & World report)を獲得しているマンハッタンにある病院です。わくわく心踊りながらの訪問でした
※PCP(家庭医やナース・プラクティショナー)紹介でspecialist に予約する場合、
提携先の医療機関のspecialistのリストから自分で選ぶか、その医師のコネクションの範囲で紹介されることになると思います。私は初診はこの形で予約しています。
セカンドオピニオン先の病院(Hospital for Special Surgery)は
①webで診療申込みをして(医師指定しないの場合は症状で先方が医師を選定)、
②先方から折返しメールを受け取り、
③指定されたオフィスに電話をかけて診察日をスケジュールする。
という流れでした。
翌週、米国内でhand の学会があったこともあり、診察は最も早くて2週間後と言われました。
前医最後の診察でNSAIDs→ガパペンチンに変更してもらったのですが、症状は徐々に悪くなっていて、小指に触ると痛みに感じる感覚異常、しびれと電撃痛、穿刺痛、灼熱痛など色とりどり。夜間は痛みで起きてしまう状況でした。
だから予約段階で診察が早くても「2週間後」と言われた時は、オペはいつなるんだ〜!!??と気が気ではありませんでした。
長い2週間、待ちに待った診察日。
アメリカにしては珍しくチェックインしてから1時間後に医師が登場しました、
と思ったら、前座のインターン生による問診で、予約した医師が現れたのはさらに45分後でした。
ここまで遅くなるのは珍しいと思うのですが、その後の別のスタッフとの会話で、夕方から準緊急のオペが入るらしかったので少し納得。
ニコニコして入ってきて開口1番に
「どうして今週オペしなかったの?(予定通りであればこの週に既にオペだった)」と。
手術を決めるために、もう少しよく知る必要があったことを説明しました。特に神経伝導検査の結果と手術方法について。
自分は理学療法士であり、可能な限りこの疾患についての下調べをして、何が望めて、何が望めないのか概ね理解していて、
前医で提示された術式(simple decompression)が検査結果に対応するものなのかどうか、また手術を回避しても改善する余地があり得るのかどうか、その2点を確認したかったのです。
下調べでオペのオプションや基本的な予後は分かっているので実際にオペしている人の実感を、論文には出てこない部分を聞きたかったのです。
私の質問に答えつつ、学生さんとフェローに症状や検査結果を解説する形で話は進みました。内容はとても面白く、症状として現れているもののreasoningできていないものもありました。
神経障害のせいでsweat grandの働きが抑制されるから部分的な皮膚の乾燥があるんだよ!とかね。
検査結果や個人因子からどう術式を選択するか解説してもらえて、ミーティング内容には非常に満足できました。前医に戻るつもりは当初からありませんでしたが、目の前の医師からすればどちらで手術するか天秤にかけられている状況なので、
「ここでお願いします。」
と言った時にその場に居たみなさんが醸し出した『契約成立』感は印象深かったです。
3人の緊張が緩んだあの一瞬!
そして医師、フェロー、学生さんと握手して退出しました。←アメリカっぽい。
オペをスケジュールし手術のパンフレットをもらい帰途に付きましたが、痛かったのはオペは更にそこから2週間後だったことです
(もう限界なんです、私の疼痛ストレスで家族が崩壊しないためにも)
「キャンセルが出たらいつでも呼んでもらえますか?」
とオペスケジュールのスタッフに聞きましたが、
「キャンセルは殆ど出ないよ」という話でした
手術が終わり数日経って、神経症状がやはりまだそこにあると確認できた時は複雑な気持ちでしたが、5週間経った今、結果には満足しています。できるベストを尽くせたなと思います。
色とりどりの痛み、電撃痛、穿刺痛、灼熱痛・・・
これらの痛み、字面には馴染みがありましたが、体験を伴って初めて明快に区別がつくようになりました
はほとんど薬でコントロール可能な範囲になりました。
それは私が仕事復帰のために第一の目標としていたことです
残る症状に目が行きがちになりますが、得られた大きいものに目を向けたいと思います。
ここまでお読みくださってありがとうございました
次回は非常にシステマティックだった日帰り手術当日のことを書きたいと思います。
アメリカ医療にこんなにもきっちりとした、システマティックな世界が存在するのかと驚いた体験でした。
さすが全米No.1!
まるで前職の都内某病院に戻ってきたかと錯覚するほどでした。
<参考文献>
Caliandro P, La Torre G, Padua R, Giannini F, Padua L.
Treatment for ulnar neuropathy at the elbow.
Cochrane Database of Systematic Reviews 2016, Issue 11. Art. No.: CD006839.
DOI: 10.1002/14651858.CD006839.pub4.