ターザン王国
――責任を外注しようとして見積書だけ増える編――
ターザン王国では
緊急御前会議が開かれていた
王座の前には
三つのものが並べられている
一、未解決の問題
二、鬼嫁ヨーコから届いた現実
三、弁護士コリン卿から届いた請求書
なぜか三だけが
日に日に分厚くなっていた
ターザン王は腕を組んだ
「余は考えた」
家臣一同がざわめいた
これは大事件である
ターザン王が自ら
「考えた」と宣言したのは
王国史上でも数えるほどしかない
「問題はつまり――」
王は重々しく言った
「余が決断しなければならないことにある」
「おお……!」
家臣たちは顔を見合わせた
ついに陛下が本質に到達した
しかし次の瞬間
「そこで、その“決断しなければならないこと”を、弁護士コリン卿に任せようと思う」
家臣一同
「…………」
遠くでカラスが鳴いた
コリン卿が静かに口を開いた
「陛下、それは法的助言としては――」
「いくらだ?」
「え?」
「余の代わりに決断する料金だ」
「それは……私には決められません」
ターザン王は驚愕した
「なぜだ!」
「陛下ご本人の意思だからです」
その瞬間
見張り塔から鐘が鳴った
カーーーーン
「陛下!」
兵士が駆け込んできた
「また出ました!」
「何がだ!」
「責任返却の呪いです!」
ドスン
どこからともなく飛んできた「責任」と書かれた巨大な麻袋が、王の膝の上に落ちた
「ぐえっ!」
王は慌てて
麻袋を弁護士コリン卿へ投げた
「持て!」
コリン卿は受け取った
そして中身を確認した
「こちらは陛下のご判断事項です」
ポイ
ドスン
再び王の膝へ
「では父上に――」
王は途中で口を閉じた
王国に静寂が落ちた
これまでなら
困った時には誰かが何とかしてくれた
怒られれば別の話をする
決断を迫られれば時間を置く
時間を置いても解決しなければ
弁護士に聞く
弁護士でも決められなければ――
また時間を置く
これこそターザン王国が誇る
伝統的行政システム
永久先送り式統治法
であった
しかし今回ばかりは
敵が悪かった
鬼嫁ヨーコは何も要求していない
説得もしていない
ただ
「で、結局どうするの?」
という鏡を
置いて帰っただけなのである
これほどターザン王国にとって
恐ろしい兵器は存在しなかった
王は弁護士コリン卿を見た
「では、余はどうすればいい?」
「ご自身で決めるしかありません」
「その回答を文書にしてくれ」
「何をでしょう?」
「“ご自身で決めるしかありません”ということをだ」
コリン卿は少し考えた
「承知しました」
羽ペンが動き始めた
さらさらさら
しばらくして、一枚の書簡が完成した
LEGAL ADVICE
Dear Merjersty
Ultimately, the decision is yours.
Sincerely,
Collin
王は満足そうに頷いた
「これで安心だ」
「なお、こちらの作成費用ですが」
「いくらだ?」
コリン卿は請求書を差し出した
王の顔から血の気が引いた
「この一文に!?」
「確認、検討、作成、送付準備が含まれております」
その時だった
再び見張り塔
カーーーーーーーーン!!
「今度は何だ!」
兵士が叫ぶ
「鬼嫁領より新たな魔法が発動しました!」
「なんという魔法だ!」
兵士は震える声で読み上げた
『それ、最初から私が言ってたよね』の呪いです!!
王国の全員が凍りついた
これは古代より伝わる
最上級魔法だった
いくら専門家を雇おうとも
いくら会議を開こうとも
いくら時間を使おうとも
最終的に専門家が言ったことが
最初から鬼嫁が言っていた内容と
同じだった場合
支払った金額に比例して
精神的ダメージが増幅するのである
王は震えながら計算した
「つまり……余は……」
「はい」
「何千ドルも払って……」
「はい」
「最終的に……」
「はい」
「鬼嫁ヨーコが無料で言っていたことを……」
「はい」
「弁護士コリンから有料で聞いた?」
家臣一同は目を伏せた
誰も答えなかった
答える必要もなかった
天井から
小さな札がひらひらと落ちてきた
そこには一言
「バカめ」
王はその場に崩れ落ちた
「コリン!」
「はい」
「この“バカめ”に法的意味はあるのか?」
ケビン卿は眼鏡を直した
「調査できます」
「いくらだ?」
「数千ドルほど」
カーーーーーン!!
「陛下! また責任が帰還しました!!」
ドスン
「ぐエっ!」
一方その頃
ブエノスアイレスの鬼嫁ヨーコは
何も知らず
布団の中でスマホを眺めていた
そして眠そうに一言つぶやいた
「まだやってんのか、あの王国」
その夜
ターザン王国の問題は
依然として一つも解決しなかった
しかし、法律相談の請求書だけは、
非常に順調に、
解決不能なほど成長していた
――次回予告――
『王、ついに自分で決めようとするが「どっちでもいい」という第三の選択肢を発明する編』
王国史上初
王、自ら決断へ
しかしその決断は、
「決めないことに決めた」
だった――
見張り塔の鐘が、今夜も鳴る
カーーーーン
「陛下! それは決断ではございません!!」
つづく
レッスン帰りに買った
ケールのパイ
美味
