「夏、花火」
半年ぶりにバンコクからケイが戻ってきた。
花火の日に、ケイから電話が来たので、横浜で会う約束をした。1人で来るのかと思ったら、サーファーらしいのっぽの男も一緒だった。
ケイの黒い瞳を見て、わかった。ケイはこの男に恋をしている。
のっぽの男から一枚の音楽CDを渡された。
「この中のミスター・エドを聞いてごらん、この曲なしに、この夏は越せないよ。」
男はそう言って笑った。
「ミスター・エド」か、オレもこの曲は知っている。バンコクとシンガポールで、毎日のように聞いていた。
2人を誘って、港の見える丘公園へ行った。
この場所が初めてなので、ケイはしばらく落ち着きがなかった。
花火が始まった。
ブルーとピンクの照明が点滅する。
ケイは真正面を見ていた。
特大の花火で、2人の横顔がカッと照らされた。
ケイは栗色の長髪。野生のヒョウのように、後ろで束ねている。
また、花火が炸裂した。
ケイの野性的な目が光る。
ケイは恋をしていると、確かに感じた。
バンコクは、灼熱の日中と、午後の爽快なスコールの繰り返しだったはずだ。
オレも横浜でケイのことは、何度も思い出していた。
今年も、ドラスティックな夏が始まる、と予感した。