「恋愛小説」
ここ数日、日本の小説を読んでいた。恋愛ものが多かった。
「武蔵野夫人」。
大岡昇平。
この小説は恋愛の心理分析だけで小説が成り立っている。
人間の恋愛感情というのは固定的ではなく、相手の目線や冷淡な返事、一瞬の目の輝き・・・そういったことによってある時はおそれたり、情熱的になったり、失望したり・・・と揺れ動く。
まことに女性の心は複雑だと思った。
おなじ好きでも男の場合は単に好きだけかも知れないが、女性の場合は何十種類もの好きがあるように思う。
それにしても女性は強く、きりりとしている。
移ろいやすく細やかで、しかも強いのが女性なのだと知った。
「痴人の愛」。
谷崎潤一郎。
まだ未熟な小娘を自分の管理下で教育したいという男の心理と、また、好きになった小娘の自由奔放な生き方に翻弄される男の話だった。
こうはなりたくないという感じだ。
この時代ぐらいから男は弱くなったのかもしれない。
「更級日記」。
菅原孝標女。
更級日記は恋愛小説と読まないのが普通だが、この日記の中で特に印象深く残っている場面があった。
それは作者35歳の時に、宮中で、源資通(みなもとのすけみち)というしっとりと落ち着いた中年の紳士と出会った場面だ。
お互い見知らぬ仲であったが、歌を交換し合い心ひかれあうようになった。
互いに再会したいと思いながらもなかなか思うようにいかず、3年間で3回だけの出会いがあった。
この出会いの様子は実に細かく記されていて、作者がまるで朱色やもえぎ色で書いているのではないかと思うほどの心の高まりを感じた。
その人との出会いが、墨絵のように淡々とした生涯の中であざやかな印象となって老境に入った今でも心に残っているようだ。
読み終わったあと、ひたひたと心をゆるやかに波打たせる名文。
さすがに千年たってまだ残っている古典だけのことはある。