あまりにも素晴らしい本だったので、今更感がしますが、イスラエルの歴史学者 ユヴァル・ノア・ハラリ著のサピエンス全史(上下)、ホモデウス、21レッスンズの読後の感想をメモっておきます。いろんな立場の色んな問題を抱えた人に読んでほしい本だと思いました。

全部読んでおく価値が大ありですが特に読みごたえがあったのはサピエンス全史(上下)でした。

 

サピエンスとはつまり人類のことです。サピエンス全史は地球上に生まれた様々な種族の中で、ホモ・サピエンス(人類)が生態系の頂点に立つまでの歴史を解説してくれています。特筆すべき点は、多角的な視点で分析を行っているという点です。作者は歴史学者ですが、歴史学という領域の枠にとらわれず、生物学、医学、物理学、社会学、機械工学、化学、地理など非常に幅広い分野の知識を動員して分析しているのです。

人体の骨格の構造によって、引き起こされる問題(出産、農作業への不適合)や指があることで記憶を外部(紙)に保存可能になった点、人間だけが持つ特殊能力(実体のないモノを実際にあるかのように集団で信仰出来る。貨幣、企業や宗教、国家など。)など単なる歴史書の枠組みを超えた内容の広さです。

 

人類は他の動物に比べて圧倒的に賢く、その賢さによって繁栄できたと単純化して考えがちですが、この本での解説はもっとずっと複雑なものです。イルカや馬、牛、豚のような家畜は人間に匹敵する知能を持っている。しかし彼らがサピエンスに敗れたのは、指を持っていなかったという点と集団で大規模な協力体制を築く能力を持っていなかったからなのです。指があれば、紙などに思考を記録し、経験を蓄積したり、情報を共有しておくことができるようになります。イルカは指を持っていませんのでこれができません。また動物は小規模な協力体制しか築くことができないため、食料を融通しあったりすることができません。しかし人間は指を持っています。また神や国家、貨幣などの本来実態のないものを実態があるかのように集団で信じあい協力体制を築くことができます。これがサピエンスだけが持っている特殊能力なのです。なぜサピエンスがこの能力を得ることができたのか、その分析も面白いのでぜひ読んで確認してください。

 

一言でいうとサピエンスが繁栄できた大きな理由は、指を持っていたこと(記憶の保存)、共通の妄想をみんなで信じられたこと(大規模な団結、貨幣)だというのです。

 

非常に面白い見方です。でも説得力があります。

 

また、ほかに印象に残っている内容は、原始時代のサピエンスのほうが現代に生きるサピエンスよりずっと賢かったのは疑う点がないという記述です。現代人より原始人のほうがずっと賢いというのですね。これも一見すると不思議ですが、考えてみれば自然なことでした。

現代人は命を脅かされることなどがほぼない生活をしています。しかし原始時代は瞬間瞬間が死に直結する重大な選択の連続だったのです。目の前の食べ物は食べることができるのか否か?狩場を変えるために移動すべきかどうか?獲物を狩るために命がけで狩りをする。適切な温度環境を確保するために居住地を確保する。そうかれら原始時代のサピエンスは、日々が命がけだったのです。判断を誤れば死ぬという状況の人間と一切命の危険がない、安全な環境で生きている人間とでは、物事に対する、集中力・思考力には歴然とした差があるというのです。

 

我々は最新のテクノロジーに囲まれて生活しているので自分が賢いと錯覚しがちですが、あくまで過去の知識を引き継いでいるだけで、個々の集中力や思考力は原始時代のサピエンスのほうが勝っているというのが作者の見解です。私も同感です。身の回りを見渡すと集中力を乱す事柄ばかりですので、、

 

また人間のことを人間と呼ばず、サピエンスと呼ぶところが面白いというか重要な点なんだなと思いました。人間に肩入れしすぎて客観性を失い真実をゆがめるのを避けるためだと解釈しています。男とか女という用語も必要に応じて、ことを子宮をもたないサピエンスとか子宮をもつサピエンスとか呼んだりします。また個人的に笑ったのが、ローマ法王のことをカトリックのアルファオスと呼んでいたことです。(アルファオスとはあるグループ内で最も立場が高いオスのこと。)徹底して客観的に記述しています。

 

さらに特筆すべき点は、「脳」に対する考察を極めて重視している点です。歴史書で脳に対する考察が繰り広げられているので面喰いますが、非常に興味深いです。人間を含めた哺乳類や多くの爬虫類、魚類などが抱える諸問題を解決するカギは脳にあるのだと主張しています。サピエンスは飢餓を克服し、戦争も克服し、ついには病も克服しつつあるのに、それでも尚、幸福感を得られていないのはなぜかという問題提起をします。外部の問題を片付けたサピエンスは次は内部の問題、つまり幸福を感じる仕組み、私(脳)とは誰なのかを研究し始めるのだと本書は過去から今に話題を転換して終わるのです。

 

全然うまく解説できていませんが、本書がもつ重要性が少しでも伝われば幸いです。ただのベストセラーや流行本の類ではないという印象を受けます。個人的にはドン・キホーテ、失楽園(ミルトン)、史上最強の哲学入門(個人的3トップ)に並ぶ位素晴らしい本だと思います。